つなごう医療 中日メディカルサイト

発達障害児と親の心をケア 名古屋大付属病院 吉川徹さん

医人伝

(2010年6月29日) 【中日新聞】【朝刊】 この記事を印刷する

療育の“作戦参謀”に 親と子どもの心療科医師 吉川 徹さん(37)

画像ソフトで穏やかに患者の話を受け止める吉川徹(よしかわ・とおる)さん=名古屋市昭和区の名古屋大付属病院で

 診察室でお母さんが心配そうに訴えた。小学校に入学したばかりのアスペルガー症候群の息子が、ほかの児童をしかる担任教師の声におびえ、家でも不安定になるという。

 「恐怖が鮮明によみがえってしまうんだよね」。ひげを蓄えた吉川徹さんは静かに受け止めつつ、腕を組んだ。学校に伝えて、対応を求めるべきか。しばらく様子を見るか−。「関係がこじれても大変だし、じわじわと働き掛けていきましょうか」

 児童精神科医として、今までに1000人以上の発達障害の子を診てきた。その経験から、学校とのかかわり方、福祉サービスの利用の仕方などをアドバイスする。進路の相談をされることもある。

 子どもの治療だけでなく、親の心のケアにも努めるのが「親と子どもの心療科」。親の悩みは子育て全般に及ぶため、「療育の作戦参謀」を自任している。

 三重県桑名市出身。高校時代から「子どもの心や育ちにかかわる仕事がしたい」と考え始めた。名古屋大が日本の児童精神科の先駆けであることを知り、志望。発達障害の世界に魅せられた。

 「物の見方や感じ方が全然違う。彼らがどういうふうに感じたのか、どんな道筋で考えて行動しているのか、何が好きで何が嫌いか、すごく興味をひかれたんです」

 愛知県立城山病院、県心身障害者コロニー中央病院を経て、2007年から母校の名大病院へ。診療の一方で、発達障害児の脳の活動、薬物の効果・影響についての研究も進めている。

 児童精神科で、子どもの心を専門的に診ている医師は、全国で3、400人という。それに引き換え、発達障害の医療のニーズは高まる一方。名大病院でも診察は、多い子でも1カ月に1度、1回15分が精いっぱいだ。一人一人、症状や生活上の問題が違う発達障害の患者・家族に、必要な支援はまだまだできていない。

 その自覚を胸に、親同士の立場で支援する「ペアレントメンター」の養成に力を入れ、行政機関や親の会との連携にも情熱を注ぐ。後輩たちには「地域の支援の状況を知り、つなぎ役になること」の大切さを説く。

 子ども時代から、ずっと診てきた患者もいる。知的な遅れのある自閉症の人が就労して、毎月の給料で、母親を連れて好きな電車に乗りに行く。「彼らが幸せに暮らしていることが、ぼくの幸せ。続く子どもたちに道を示すことができるんです」 (野村由美子)
 名古屋大付属病院(名古屋市昭和区)

同じ連載記事
「患者によいこと」第一に 福井大病院 林寛之さん (2016年12月6日)
漢方の科学的根拠追究 鈴鹿医療科学大 西村甲さん (2016年11月29日)
心臓病の遠隔診療に尽力 滋賀県立成人病センター 池口滋さん (2016年11月15日)
健康的な習慣づくり推進 公立つるぎ病院 有川康二郎さん (2016年11月8日)
網膜疾患患者の支えに 名古屋大病院 眼科医 上野真治さん (2016年11月1日)
同じジャンルの最新ニュース
手作りできる障害児教材 岐阜の支援学校教員 考案の125点、本で紹介 (2016年12月2日)
自閉症のサル初確認 岡崎の研究所など 人間と同じ遺伝子の変異 (2016年11月19日)
知的障害の痛み知って (2016年9月22日)
どう防ぐ 関係者困惑 開放的な造り 侵入者想定外 (2016年7月26日)
外来で吃音リハビリ (2016年7月5日)

中日新聞広告局 病医院・薬局の求人