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うつを防げ<16>生き方を変える 

(2010年10月28日) 【中日新聞】【朝刊】【静岡】 この記事を印刷する

成功の道一つだけでない

米国における経済成長と幸福

 認知療法で考え方を変えることがうつを治すのに役立つと述べた。認知療法は一種のディベートのようなもので、自分の心に浮かぶ暗い考え方に対抗するような考えを生み出し、最後には自分を肯定するような考えを持たせるものだ。闘争的な生き方を好む欧米人には向いていても、相手の意見を受け入れることの多い日本人には、認知療法を徹底することは難しいように思える。そこで考え方を変えるには生き方を変えてみるということが大事だと思われている。

 私たちは「競争に負けたら日本の未来はない」という言葉に常に脅かされてきたと言ってもいい。しかし競争で勝っているようにみえても、長い人生で勝利を得るとは限らない。

 富は必ずしも幸福につながらないと言われる。道徳の言葉ではない。米国ではこの20〜30年の間、個人所得は上がり続けた。ところが幸福だと答えられる人はどうか=図。

 先を急いでいる人が失敗することはよくある。中国では権謀術数を使って争うのが常だ。このためおごらないようにせよとの格言が多くある。菜根譚には「世に処するには一歩を譲るを高しとなす」とある。相手に一歩譲って、慢心していないことを見せることが大事だという。「奢(おご)る者は富みて足らず」ともある。もっとぜいたくをしようと思う人はいかに富んでも足りないと述べたものだ。

 中国には「あえて天下の先たらず」という考えもある。先に立とうとしすぎると、人に嫉妬(しっと)され足を引っ張られる。だから先を急がないし、先に走る人をうらやまない心構えを説いている。2番手、3番手の人に対し、トップを走っているようにみえる人をうらやましがったりせず、実力をつけることに目を向けなさいと言っているのだ。

 次に大事なのは、人生は1つの成功の道があるだけではないということである。「人の行く 裏に道あり 花の山」という句もある。花見の客が列をなしているところでは、どこも満員で花見の宴をするような場所がとれない。その裏側に誰も歩かない道があって、そこを歩けば1人で花を見物できるということを歌ったものだ。

 自分の場合を考えても、最初私たちよりもはるかに良い人生を送っていたようにみえる人たちも、年をとるとそうでもないような人生になっていることがある。若い時の成功、失敗の判断は間違いだったということになるのである。(浜松医科大名誉教授・高田明和)

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