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胃ろうを作りますか? (2)家族、現場の葛藤

(2011年1月11日) 【中日新聞】【朝刊】 この記事を印刷する

必要な処置か延命か

画像胃ろうで栄養の補給を受ける患者=岐阜県内の病院で

 長期療養が必要な高齢者が入院する、岐阜県内の病院の療養病床。昼どきだが、食堂に患者はまばら。この病床では、入院患者四18人中28人が口からでなく、鼻や胃に通したチューブから栄養を取っている。大半が、胃ろうの患者だ。

 看護補助の職員が栄養剤入りのボトルを4人部屋の病室に運ぶ。追い掛けるように看護師が病室に入り、栄養剤のチューブをベッド上の患者の胃ろうにつなげる。1人当たり1分程度の早業。全員が胃ろう患者の部屋もある。意思表示のできる人はわずか。看護師が去った後、ひっそりした病室で、栄養剤が胃に流れていた。

 胃ろうの患者が並ぶ光景は、療養病床では珍しくない。

 日本慢性期医療協会の調べでは、医療的ケアに重きを置く医療型療養病床の1昨年6月の入院患者のうち、3割弱が胃ろうの患者。介護型療養病床でも、2割弱が胃ろう患者とのデータもある。

 家族の思いは複雑だ。愛知県内の療養病床に入院中の元建設業の男性(80)は、神経の病気で嚥下(えんげ)機能が低下し、6年前に胃ろうにした。本人の意思確認が難しく、長男夫婦が同意した。その後、在宅介護をしてきたが、病状は進行。今は意識もほとんどないまま、入院生活を送っている。

 長男(54)は「どんな状態でも生きてくれているのはうれしい」と話す一方、長い間、ほとんど反応のない姿に、「父がどう思っているかと考えていると複雑。胃ろうが、これほど延命につながるとは知らされていなかった」と話す。

 患者をケアする現場スタッフも、さまざまな思いで、胃ろうと向き合っている。

 岐阜県で複数の特別養護老人ホームを運営する社会福祉法人「新生会」の太田澄子常務理事は「胃ろうを望まないのに、『口から食べられないと胃ろう』という流れでいいのか」と疑問を投げかける。同様の思いを抱く職員も多い。

 ただ、名古屋市名東区の特養「極楽苑(えん)」の山口喜樹苑長は「職員の思いは1つではない。胃ろうを作らない人に疑問に感じる職員もいる」と明かす。

 胃ろうにするかしないかは、病院で家族が決断するケースがほとんどだ。介護施設は、家族の決断に従い、その後のケアを提供するにとどまる

 「ギリギリのところまで口から食べさせてあげたい」「食べ物がのどを通らなくなってきたのなら、早めに胃ろうにした方がいい」。胃ろうを作ること自体、作るケース、タイミングなど、家族、職員それぞれの思いがあり、その思いが一致しない場合、職員は、自分たちの提供しているケアが利用者本人のためになっているか思い悩む。

 混乱に拍車を掛けているのが、胃ろうにした後の容体に、人によって大きな違いがあることだ。

 嚥下障害で胃ろうを作り、そこからの栄養で元気を取り戻し、3食を口から食べられるまでに回復した人。認知症による食欲低下だからと胃ろうにしなかったために、栄養不良が進む人。胃ろうにしても回復しない人…。

 「家族は、回復すると思って胃ろうを選ぶ。回復しなかったからといって、胃ろうは不要な延命と決めつけるのは少し早い」と山口さんは感じている。

 どんな胃ろうが「必要な処置」で「不要な延命」なのか、家族も悩み、現場のスタッフも悩んでいる。 (佐橋大)

対応分かれる施設

 特養や老人保健施設にも、胃ろうの患者はいるが、療養病床ほど多くない。厚生労働省の2007年時点の調査では、入所者に占める胃ろうの人の割合は、特養で7・7%、老健で4・0%だった。胃ろうの人の割合を1割弱に抑えている特養が多く、「胃ろうなど経管栄養の人は退所」という特養もある。グループホームは、ほとんど受け入れていない。

 これは、胃ろうに栄養剤を流すなどの行為が「医療行為」とされ、家族や看護師にはできるが、原則、介護職員にはできない行為とされているためだ。特養、老健は、法律が求める看護師の割合が療養病床に比べ格段に低い。看護師不足や金銭的な余裕のなさから、看護師をより多く雇うことは難しい。

 最大の受け皿の療養病床は国の政策で減少傾向。在宅での家族の介護力の低下も加わり「胃ろうの人の入所希望が増えている」という介護施設が多い。しかし、現状の態勢では、新規入所には、なかなか応じられない。

 一方、胃ろうをつけず、誤嚥のリスクの高い人の入所を歓迎しない施設も多い。胃ろうが施設入所の障害になるとは一概に言いきれない。

体験談募集 胃ろうに関する体験談などを募集しています。「胃ろうのおかげで家族が長生きしてくれて良かった」「胃ろうしてまで生きるのは…」といった思い、医師らに胃ろうを勧められたときの戸惑いや疑問、提言をお寄せください。医療・介護関係者の投稿も歓迎します。応募先は医療取材班(iryouhan@chunichi.co.jp)あて。

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