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チェルノブイリで多発 セシウムで膀胱炎 がん発症率20年で倍

(2011年9月20日) 【中日新聞】【朝刊】【その他】 この記事を印刷する

医学博士・福島氏に聞く

画像「チェルノブイリ膀胱炎」について話す福島昭治氏=神奈川県秦野市で

 福島第1原発事故から半年。子どもの尿から放射性セシウムが検出されるなど、福島県内では内部被ばくの危険にさらされている。チェルノブイリ原発事故で、がん発症の因果関係が認められたのは小児甲状腺がんのみだった。だが、土壌汚染地域からはセシウムの長期内部被ばくによる「チェルノブイリ膀胱(ぼうこう)炎」という症例の報告もある。医学博士の福島昭治・日本バイオアッセイ研究センター所長(71)に話を聞いた。(小倉貞俊)

体外排出に40〜90日

ウクライナのセシウム137土壌汚染(上)/ウクライナでの「チェルノブイリ膀胱炎」の発症状況(下)

 「セシウム137は膀胱にたまり、尿として排せつされる。絶えず膀胱に尿がたまっている前立腺肥大症の患者なら『影響が出やすいのでは』と思ったんです」

 化学物質の健康被害を研究する同センター(神奈川県秦野市)で、福島氏は研究に取り組むきっかけを振り返った。

 1986年4月、旧ソ連(現ウクライナ)でチェルノブイリ原発事故が発生。10年後の96年、大阪市立大医学部第一病理学教室教授だった福島氏は、ウィーンで開かれた世界保健機関(WHO)の会議に出席した。その際、事故の健康被害を研究していたウクライナの教授らと意気投合し、共同研究を始めた。

 同国では、10万人当たりの膀胱がんの発症率が86年に26.2人だったのが、96年には36.1人と、約1.3倍に増加していた。

 原発事故で大量に放出されたセシウム137は土壌に付着し、放射能は30年で半減する。汚染されたほこりや食品などを口から体内に取り込むと、腎臓を通って尿から排せつされるのは40日から90日もかかる。

 「セシウムによる長期被ばくが原因ではないか」。そう考えていた福島氏らは、94年から2006年に、前立腺肥大症の手術で切除された膀胱の組織131例を分析し、その多くに異常な変化を見つけた。

 「顕微鏡で組織を見て、すぐに『これは今までに経験のない病変だ』と驚いた」と福島氏。

 通常は同じ大きさに整然と並んでいるはずの上皮の細胞がふぞろいな形に変化しており、上皮の下にある粘膜の層には液がしみ出して、線維と血管が増えていた。

 福島氏らは、居住地別に患者を「高い放射線量地域」(1平方キロ当たり30〜5キュリー=放射能の強さを表す単位)、「中間的な線量地域」(同5〜0.5キュリー)、「非汚染地域」の3グループに区分。高線量と中間的線量の地域の約6割で、膀胱がんの前段階である「上皮内がん」を発見した。一方、非汚染地域での発症はなかった。

 病変は、DNAでがんの発生を抑える「P53遺伝子」などが、セシウムのガンマ線などで変異して損傷したのが原因とみられた。福島氏らは「膀胱がん化する恐れが高い慢性の増殖性膀胱炎」と結論付け、研究途上の04年に「チェルノブイリ膀胱炎」と命名した。

 その後、同国の膀胱がんの発症率は05年には50.3人と、20年前の2倍近くにまで増加した。「長期にわたる疫学的な調査を実施していれば、膀胱がんとの因果関係も分かったはず」と福島氏は力を込める。

 日本でも、チェルノブイリのように膀胱炎の患者が出るのだろうか。

 先の3グループの患者の尿中のセシウム濃度は1リットル当たり平均で、高線量地域は約6.47ベクレル、中間的線量地域が約1.23ベクレル、非汚染地域で約0.29ベクレルだった。

福島でも尿から検出 高精度検査、除染が急務

画像福島県の子どもの尿検査の結果を発表する「福島老朽原発を考える会」のメンバーら=7日、東京都千代田区で

 福島原発事故を受け、厚生労働省が5月から6月に行った母乳の放射性物質調査では、福島、二本松、相馬、いわき各市の女性7人から1リットル当たり1.9〜13ベクレルのセシウムを検出。同省は「乳児が飲み続けても健康に影響はない」との見解を出したものの、ウクライナの尿中セシウムと近いレベルとあって、危惧する研究者も少なくない。

 市民団体「福島老朽原発を考える会」も、セシウムによる膀胱炎の研究報告に着目する。5月下旬、福島市の6〜16歳の子ども男女10人の尿に含まれる放射性物質を採取し、フランスの放射線測定機関に検査を依頼。さらに7月下旬には追跡調査のため、この10人を再検査した。

 このうち9人は再検査の時点で県外に避難しており、5月の検査に比べて尿中のセシウム濃度は20〜70%減少した。逆に、福島市に残っていた1人はセシウム137が11%増の1リットル当たり0.87ベクレルを検出した。

 新たに県内の10代男女5人を検査すると、1人はセシウム134が同1.82ベクレルと、これまでで最高の値を記録した。

 同会は7日、東京都内で検査結果を発表した。阪上武代表(46)は「福島では日常的な呼吸や食事により内部被ばくが続いている可能性が高い。汚染地域に住み続けることでチェルノブイリで発生した膀胱炎のような症例が起きかねない」と懸念。

 福島県民健康管理調査での尿検査は、セシウムを検出できる下限値(検出限界値)が13ベクレルと高すぎることを挙げ、「より精度の高い検査の導入を」と改善を求めた。さらに「除染完了まで子どもを避難させることも考えるべきだ」とも。

 土壌汚染の程度についてはウクライナと福島県を比較すると、ウクライナの高線量地域はキュリーからベクレル換算で1キログラム当たり約13万8000〜2万3000ベクレル、中間的線量地域は2万3000〜2000ベクレル。福島市などは、この中間的線量地域に近い数値だ。

 同様の線量の南相馬市で除染活動に携わる東大アイソトープ総合センター長の児玉龍彦教授(58)は「すでに膀胱がんなどのリスクが増加する可能性のある段階とみるべきだ」と警鐘を鳴らす。

 原発被災地の住民の間では、尿中の放射線量に対する関心も高まっている。同市は15日から、これまで対象外だった7歳未満の未就学児の尿検査を無料で始める。

 同市が内部被ばくを検査するホールボディーカウンターは、測定に3分ほどの静止が求められ、体格も合わない未就学児を除外。市民から尿検査の要望が寄せられて実現するものの、ここでも検出限界値が20ベクレルと高いのが難点という。

 チェルノブイリ周辺では、免疫力が低下し、各種の感染症が多発した。では、膀胱への内部被ばくを抑えるにはどんな対策を取ればいいのか。

 前出の福島氏は「尿をためないように、なるべくトイレに行くこと。マスクで防御し、安全な食材を選ぶこと。当時のウクライナは食材を含め、日常生活の管理や指導がしっかりされず、被害を広げた面もある」。

 最後に福島氏は強調した。「『福島膀胱炎』が起きないようにすることは十分できるはずだ。適切な情報を得ることが安全を守ることにつながる。風化させないよう一人一人が意識を高めてほしい」

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