〈終末期を考える〉 「人生の卒業式」 自分らしく 元中学校教諭のエンディングストーリー
臨終の要望、家族で共有 葬儀準備、あいさつ文も
薦田耕太郎さん終末期をどう迎えたいか−。「エンディングノート」などを活用して、人生の幕引きを自ら決める人が増えている。自分らしい最期を求めた、1人のがん患者のエンディングストーリーを取材した。(林勝)
2011年6月17日。「その日を人生の卒業式にしたい」
末期の悪性リンパ腫(血液がんの一種)だった元中学校教諭、薦田(こもだ)耕太郎さん=当時(63)、大阪府吹田市=は、亡くなる4日前、病院に見舞いに来た長男徹さん(35)に、家族に看(み)取られる日を告げた。耕太郎さんはスケジュール帳に「人生の卒業式」と書き付けた。「卒業シーズンとちゃうなぁ」と徹さん。互いに笑みがこぼれた。
17日の朝、耕太郎さんは、病院に泊まり込んだ徹さんや妻の幸子さん(61)、長女裕子さん(32)、孫たち家族全員に見守られていた。病状の進行と痛み止めの薬の影響で意識が薄れていたが、苦しむ様子はなかった。
午前9時半過ぎ、呼吸が一段と浅くなった。家族の呼び掛けに耕太郎さんは、それまで閉じていた目をわずかに開け、ゆっくり一呼吸つくと、そのまま逝った。幸子さんは、耕太郎さんが最期に目で「ありがとう」を伝えてくれたと思った。
家族みんなに囲まれて「いい人生だったね」等と祝福され、自分も「ありがとう」と素直に答えられたらいいな。自分の人生に納得し、充実感をもち、明るく冷静にその時を迎えようと思う。
耕太郎さんはこの日の1年前、臨終の際の要望をまとめ、「人生の卒業式」と題した家族への手紙にこう記した。そして、家族で思いを共有してきた。
02年4月に発症した。すぐに「病気と闘う」と家族に宣言。資料を集めて勉強し、自己管理に努めて、抗がん剤治療を受けた。一方で、家族旅行など目標を立てて励みにした。「とにかく元気で、逆に私たちが支えられていた」と裕子さんは振り返る。
闘病生活に転機が訪れたのは、09年秋から翌年春にかけて。がん細胞の増殖を示す値が急速に上昇していた。抗がん剤が効きにくくなり、耕太郎さんは死期が迫っていることを悟った。そんなときに「人生の卒業式」を書いた。
今後更に差し迫ってからでは自分自身の考えを思い通りに伝えられないかもしれないので、判断ができる今のうちにまとめておきたい。
こんな書き出しで始まる便せん2枚を、徹さんに託した。内容は3点。
毎日を前向きに生きる▽不適切な延命はせず、それで死期が早まっても構わない。代わりに、苦痛を和らげる処置を最大限行う▽家族に囲まれて死を迎えたい−。
それ以降、耕太郎さんは、人生の幕引きの準備に熱心に取り組んだ。葬儀のやり方を決め、参列者への謝辞も用意。友人や近所の人たちへのあいさつ文もしたためた。
体力が衰え、考えられる未来の幅がだんだんと狭まっていた。でも、毎日を前向きに生きる姿勢は変わらなかった。誕生日会など、何かにつけて家族のイベントを設け、それを楽しむことを目標にした。
終末期ケアを受け始めてからも、自分の病状を友人らに携帯電話のメールで発信し続けた。そんな積み重ねが「人生の卒業式」のあの日につながったのではないか。家族は今、そう考えている。
生前、献身的に看病した幸子さん宛てに、内緒で書いた手紙がある。
命の底から湧き出た様な明るさで、それがどんなにか自分を元気づけてくれたことか。(中略)これまでの緊張から解き放たれ、新たに明るく楽しい人生を生きてください。幸せな人生をありがとう。
幸子さんは心から思う。「ほんまに、あの人は生ききったんですわ」
意思の確認早めに 終末ノート活用を
自分らしい人生の幕引きを希望した耕太郎さんが生前に書いた手紙を手に、思い出を語る薦田さん一家=大阪府吹田市で終末期をどう過ごしたいのかをはっきりさせ、家族で共有した薦田さん一家。耕太郎さんの妻幸子さんは「おかげで闘病期間は、とても凝縮された時間を過ごせた」と振り返る。「人生を生ききってくれた」という実感から、不思議なほど喪失感はないという。
医療ボランティア活動をきっかけに、終末医療の充実を求め、1993年に「あいちホスピス研究会」を発足させた永井照代さんは、家族間の意思確認の大切さを訴える。「かつて、研究会に寄せられた相談の多くは痛みの悩みだった。痛みのケアが進んだ現在では、代わりに家族関係が大きなテーマになっている」と指摘する。
患者の家族の間で治療方針や終末期の過ごし方などをめぐって意見が分かれ、その悩みが研究会に寄せられることも。永井さんは、意見の食い違いから生じる不和で、患者の終末期に家族同士が向き合う時間が損なわれることを心配する。
「『延命したくない』などの話し合いは早めに。(死期が迫った)ぎりぎりの時になると余計に話がしにくくなる」と話し、エンディングノートなどの活用を勧めている。
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