がん細胞を攻撃する分子標的薬 皮膚障害の副作用も
発疹や腫れ、痛み… 早めの対策が大切

がん細胞を狙って攻撃する新しいがん治療薬「分子標的薬」は、一部のがんへの治療効果が高く、新薬も相次いで登場している。皮膚に特有の副作用が出やすい薬も複数あり、対策が課題になっている。(佐橋大)
「分子標的薬は、まだ発展途上。皮膚細胞など正常な細胞も一部攻撃してしまいます」。国立がん研究センター東病院(千葉県柏市)の消化管内科医長、吉野孝之さんはこう説明する。
分子標的薬は、がん細胞を増やしたり、がん組織に血管を引き込んだりする特有の分子(主にタンパク質)の機能を止めて、がんの成長を抑える。例えば、大腸がんの治療では、がん増殖に関わるタンパク質の働きを抑える分子標的薬が、4年前から複数登場。手術が難しいがんや再発がんの治療に使われている。
だが、皮膚や爪を作る細胞にも同じタンパク質があり、これらの細胞も打撃を受け、皮膚などに炎症が起こることも。
多いのは、顔などに出るにきびのような発疹。新しい皮膚がうまく作れないため皮膚が薄くなって乾燥し、かゆみがひどくなったり、指先が割れて痛みに苦しんだりする患者もいる。手足の爪の周りが腫れ、靴を履くことや手仕事が難しくなる場合も。
腎臓がんや肝臓がんの薬ネクサバールは、手足の皮膚が腫れて痛む「手足症候群」が出やすい。慢性骨髄性白血病の薬グリベックは、かゆみを伴う赤い発疹が出やすい。
ただ「患者の生存のため、副作用が出ても、できるだけ分子標的薬の治療を続けたい」と吉野さんは話す。「分子標的薬によっては、皮膚障害が強いほど生存期間が長い」との研究結果が複数ある。副作用は、薬がよく効いている証拠と考えるからだ。
昨年、日本皮膚科学会中部支部学術大会長として、「分子標的薬皮膚障害対策マニュアル」の作成を企画した三重大医学部教授(皮膚科)の水谷仁さんは「つらい皮膚障害をできるだけ抑えることで、分子標的薬による治療が続けられる」と、皮膚症状の治療の大切さを説く。
水谷さんは、三重大病院(津市)で、分子標的薬による皮膚障害を治療している。皮膚障害が起きた場合、がんを治療する診療科で初期対応し、重症になると、皮膚科の専門医が治療にあたるのが一般的だ。
にきびのような発疹には、炎症を抑える効果を期待してミノサイクリンなどの内服抗生剤やステロイドの塗り薬を使うなど、皮膚障害の治療法はある程度、確立されている=表。
複合的な要因で、基本の治療法では良くならないケースも。その原因を見抜き、適切な対策を打つのが皮膚科医の技能。爪の周囲に炎症が起きた際、痛みを和らげるテーピングも、皮膚科医が得意とするところだ。「薬や薬の強さの選択など、皮膚科医の知識や技術が患者の痛みや悩みの軽減に役立つ。がんの診療科との連携が大切」と水谷さんは話す。
診療では、適切な薬や保湿剤を使ったスキンケアを勧め、足が腫れて痛みのある患者には、履物選びの助言もする。結果、症状が改善し、患者の生活の質が大幅に上がったこともある。
海外では、症状が出てから対応するより、分子標的薬を投与する前日から内服抗生剤を飲み、日焼け止めや保湿剤、炎症を抑えるステロイド薬を塗ることで、皮膚障害の重症例の発生が大幅に減る、との研究がある。
水谷さんは「肌を紫外線にさらさないようにしたり、日焼け止めや保湿剤を塗ったり、肌への刺激を避けたりといった予防ケアは患者でもできる。早めのケアに取り組めるよう、がんの診療科の先生も、皮膚障害対策マニュアルを活用してほしい」と話している。
分子標的薬皮膚障害対策マニュアルは、三重大医学部皮膚科(「三重大学」「皮膚科」で検索)のホームページからダウンロードできる。
分子標的薬 正常細胞にも打撃を与えて脱毛や吐き気などの副作用を起こす従来の抗がん剤と違い、がん細胞に特有の分子をピンポイント攻撃することで、がん細胞の成長を止めたり、殺したりする。特定の分子を狙うため、がん細胞の遺伝子のタイプによって効果の有無が違う。
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