これまで廃棄の大腿骨頭 「バンク」に保存、手術で再利用
名大医師らがNPO 人工関節再置など安価に

股関節に人工関節を入れる手術の際、患者から採取する大腿(だいたい)骨の骨頭を冷却保存し、必要な際に備える「骨バンク」が活用されている。細かく砕いて脊椎の欠損部分を補ったり、骨と人工関節の間を埋めたりするのに使用。費用面や安全面で患者に負担が少ない点がメリットだ。(柚木まり)
変形性股関節症などの患者は、変形した大腿骨の骨頭部分を切り取り、人工関節を挿入する。体を動かすたびに、金属の人工骨頭は受け皿になるソケットのプラスチック部分を削り、10年ほどたつとプラスチックの粉が骨を少しずつ溶かす。骨との間に隙間ができてくると、違和感を感じたり体が変形したりすることもある。
名古屋大医学部の長谷川幸治准教授(整形外科学)は、患者らとともに2005年、NPO法人「骨バンクネットワーク東海」(名古屋市昭和区)を設立。人工関節の手術で切り取ったゴルフボールほどの大腿骨頭を冷却保存し、必要な手術の際に各病院へ無償で提供する体制を整えた。
骨の欠損部分が大きい場合、自分の健康な骨を削って使うことは難しい。セラミックスなどの人工骨は、十分な量を確保できる一方、5〜20万円と患者の経済的負担が大きい。骨を再生する能力は人骨が優れ、必要な量を必要なときに用意できる骨バンクの役割が注目されている。
供給に協力する医療機関は、はちや整形外科(名古屋市千種区)や南生協病院(同市緑区)など愛知や岐阜、静岡の3県で23。一方、手術で活用しているのは、愛知医科大病院(愛知県長久手市)など18。10〜11年で189件の手術に313個が使われ、脊椎固定手術が70%、人工股関節の再置手術が26%だった。
手術で切り取った骨は、患者の同意を得た上で名大病院の整形外科に集められ、無菌状態でマイナス80度で冷凍保存する。エイズウイルス(HIV)や肝炎などの感染症がないことを確認するため、3カ月以上経過してから使用する。
これまで、遺体の骨提供も呼び掛けられてきたが、大きい骨を取ることもあり、家族の同意は得られにくかった。骨頭が切り取られる人工股関節や大腿骨骨折の手術は、全国で年間6万5千件。ネットワークによると、00年に愛知、岐阜、静岡県の56病院へのアンケートで、摘出した骨は年間1348個、うち約1000個が廃棄されていたという。
ネットワークは、骨バンクを安全に利用しやすくするため、骨をバーコードで管理するシステムを構築。骨一つ一つにIDを付けて患者の病名や重さの情報を入れた。依頼を受けたら必要な骨をすぐに見つけ出せるようになり、各病院へ利用を呼び掛ける。
長谷川さんは「長寿社会になり、先を見据えた人工関節の治療が必要になった。安全な骨を提供できる環境づくりのため、バーコード管理の活用を広めていきたい」と話している。
友と歩けるようになった
以前より動けるようになった足のトレーニングを欠かさない今崎博英さん=岐阜県多治見市で岐阜県多治見市の今崎博英(ひろえ)さん(73)は、4年前に左脚の人工股関節の再置手術をした。36年使い続けた人工関節は次第に緩んで腰の方へ上がり、左足が縮んで短くなった。体は左へゆがみ、歩幅も50センチしか開けない。
趣味のコーラスでステージに立つ際、床に引きずらないようロングスカートの丈を左側だけ8センチ短くした。旅行に行っても、遅れを取らないよう、友人が話している間に先に席を立って目的地へ向かって歩いた。
長谷川さんは、古い人工関節を新しいものと交換し、緩んでいた骨の欠損部に5個の大腿骨頭を砕いて周辺を固定した。縮んでいた左足は伸び、まっすぐに立てるようになった。「友だちと肩を並べて歩ける。そんな当たり前のことで、私の人生はぱっと明るくなりました」と、今崎さんは喜ぶ。
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