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富山刑務所の受刑者死亡 塀の中、しぼむ医療

(2012年5月1日) 【北陸中日新聞】【朝刊】【富山】 この記事を印刷する

常勤医不在が常態化

画像医療態勢の充実が求められる富山刑務所=富山市西荒屋で

 富山刑務所で2月、容体が急変した70代の男性受刑者が、十分な応急治療を受けられずに死亡した。外部識者による同刑務所の視察委員会(委員長・福島武司弁護士)は救急時の医療態勢で「不適切な点がある」と指摘したが、常勤医師の不在と受刑者の高齢化で対応に苦慮する刑務所の実態も浮かび上がった。(川田篤志)

 ■当直者独断

 富山刑務所などによると、男性は2月5日午後8時35分ごろ、職員が湯たんぽを交換するため呼び掛けた際、意識がもうろうとしていた。

 当直責任者は「緊急性がない」と判断したが、容体が悪化したため1時間後に常勤の看護師に連絡。さらに1時間後に救急車を呼んだ。男性は病院に運ばれたが、同11時52分に死亡が確認された。死因は不明。

 刑務所の運営をチェックしている視察委員会は事態を問題視。刑務所に4月16日提出した意見書で、医学知識のない当直責任者が外部の医師に相談せず、独断で救急搬送を見送った点など、男性死亡の経緯で刑務所側の対応に不備があったと指摘した。

 ■応募者ゼロ

 背景には昨年11月からの常勤医不在がある。ここ5年は常勤医が「一身上の都合」で相次いで1年足らずで退職。非常勤医師4人が当番制で週3回診察する日々が続いている。

 富山刑務所の石榑(いしぐれ)宏成総務部長は常勤医不在が長引く現状に「医療態勢は万全ではない」と認める。地元の医師会や大手病院に加え、インターネットで医師を募っているが、応募はない。

 法務省によると、刑務所や拘置所など全国188の刑事施設で、常勤医の定員は計332人だが、欠員は約1割の32人(2月1日現在)に及ぶ。各施設に医師に当たる医務課長を置くことが規則で定められているが、常勤医がいない施設は北海道の釧路刑務所や富山刑務所など8施設ある。

 医師不足の原因について、法務省矯正局の担当者は「2004年の臨床研修制度の見直しで、医局勤務医が少なくなった大学が地方へ医師派遣できなくなった」とみている。

 国家公務員となる刑事施設の常勤医は、民間との給与格差や専門分野を極める機会につながらないなど、医師側のデメリットもあり「医療態勢の充実のため各施設に常勤医を配置したいが、医師の倫理観に訴えるしかないのが現状」と嘆く。

 ■進む高齢化

 受刑者の高齢化も深刻だ。富山刑務所では26歳以上で再犯した男性受刑者を収容している。2011年末で受刑者480人のうち、60歳以上は84人。全体の17.8%を占め、07年より4ポイント増えた。

 生活習慣病など持病を持つ受刑者もおり、石榑総務部長は「刑務所は時代背景を反映する『社会の縮図』といわれるが、医師不足と高齢化も当てはまる」と話す。

 刑務所は、視察委員会の意見書に対し、法務省などと相談し対応策を検討している。石榑総務部長は「理想論を並べて絵に描いた餅として終わらせるのではなく、現状で何ができるかをしっかり考えたい」と話している。

 男性受刑者死亡の経緯 意見書によると、昨年6月に収容された受刑者は高血圧などの生活習慣病を抱え、食事制限や投薬治療をしていた。死亡した2月5日は朝から食事を取れない状態で、午後5時半ごろに血圧と脈拍が低下。8時半ごろは意識がもうろうとしていたが、監督当直者が「生命に別条はない」と判断。救急車を呼んだのは2時間後で、受刑者は病院で死亡が確認された。

 後記

 刑務所の医療態勢の改善は、2001、02年に名古屋刑務所で起きた受刑者死傷事件を機に、日弁連が強く求めてきた。高い塀に囲まれた刑務所内の出来事は外部から見えづらく、今回も視察委員会の意見書で明るみになった。刑務所は、問題の真相解明と再発防止で説明責任を果たすべきだ。

 一方、医師不足は刑務所で解決できる問題でなく、医療態勢の充実に近道はなさそう。どう対策を取るのか、まずは刑務所側の回答を待ちたい。

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