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25年ぶり2人目の医学生理学賞 日本の研究体制に課題 

(2012年10月10日) 【中日新聞】【朝刊】【その他】 この記事を印刷する

資金、環境米に及ばず 上司の雑用、若手の妨げ

画像スウェーデンのラーシュ・バリエ駐日大使(左)から花束を受け取る山中伸弥京都大教授。その左は松本紘学長

 21世紀に入って、ノーベル賞の自然科学系で日本人が次々と受賞するようになった。医学生理学賞の受賞は、25年ぶり2人目だ。山中伸弥京都大教授は「国の支援のおかげ」と話す。だが、日本の基礎研究の未来は必ずしも明るくはないというのだ。お寒い研究環境の事情とは。 (小坂井文彦、中山洋子)

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 2001年以降、自然科学分野の3賞を受賞した日本人は米国籍を取得した南部陽一郎氏を含めて10人。米国の43人(南部氏を除く)に次いで世界2位だ。

 「知っていそうで知らないノーベル賞の話」の著者で、スウェーデン協会会員の北尾利夫氏は「全体から見れば少なく、まだまだこれから。日本は研究資金も少ないが、上司の研究者のために雑用をしなければならず、研究に専念できる時間が少ない。研究環境を変える必要がある」と指摘する。

 日本人であっても、「米国育ち」の受賞者は多い。08年に物理学賞を受賞した米シカゴ大名誉教授の南部氏は1950年代に渡米し、70年には米国籍を取得。下村脩・米ボストン大名誉教授(2008年化学賞)や根岸英一・米パデュー大特別教授(10年化学賞)も研究拠点は米国だ。

 山中氏も米国留学から帰国後、「ネズミの世話に追われる」ような研究環境に挫折を覚え、一時はふさぎ込んでしまったことを明かしている。9日の記者会見では「日本では研究もするし、夜は診察、土日は病院の当直でほとんど帰れなかった」と話した。

画像山中伸弥教授が所長を務める京都大iPS細胞研究所の研究室=いずれも9日午前、京都市左京区で

 政府は01年に示した「科学技術基本計画」で「50年間にノーベル賞受賞者30人」の目標を掲げた。だが、受賞者数だけを競うような数値目標は専門家から「品がない」と指摘され、11年度からの第4期計画からは消えた。

 文部科学省は「ノーベル賞が出るような研究基盤を整えることには変わりはない」と主張するが、黒川清・政策研究大学院大教授(医療政策)は「そうだとしても、日本の研究システムは随分と効率が悪い」と指摘する。

 実際、日本の最高学府であり、多額の予算を投じている東京大を拠点にしている受賞者は数えるほど。近年では小柴昌俊・東大特別栄誉教授(02年物理学賞)が挙げられるくらいだ。

 黒川氏は「受賞者に共通するのは、日本の主流にいたわけではない点。山中氏も米国から戻って随分と苦労したと思うが、反骨精神で粘り強く頑張った」と説明する。

 山中氏の場合は、06年にiPS細胞を突き止め、翌年に人間の皮膚細胞で作製して、世界の注目を集めたころから研究予算は急増した。

 他の分野の研究者から「iPS関連予算は別格」とのぼやきも漏れるほど、国を挙げての投資対象となってきた。

 文科省の関連予算だけを見ても、幹細胞・再生医療関連の予算は07年度で総額10億円ほどだったのが、08年度には45億円に跳ね上がり、09年度は94億円と倍増。本年度も67億円が計上されている。

 ただ、それでも米国の投資額には到底及ばない。独立行政法人科学技術振興機構の研究開発戦略センターが昨秋まとめた報告書によると、米国立衛生研究所の幹細胞研究費は、12年度予算で約86億円(推定)。カリフォルニア州は08年からの4年間で約72億円を投資している。大学も製薬会社などから資金を幅広く集めており、「公開情報で分かる投資額は氷山の一角と思うしかない」(同センター)と見るほどの勢いだ。

 だが、前出の黒川氏は、米国の強みは資金力だけではないと強調する。「日本の大学は、若い研究者を手足として使い、独立を妨げる。それでは、担当教授のクローンしか生まれない」と指摘し、続けた。

 「米国では、博士課程を終えた研究者(ポスドク)は必ず別の大学に行く。若手を熱心に育てている研究者の下に人材も集まる。日本も仕組みを変えないと、いくら金を使おうが、新しい科学の種は芽吹かない」

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