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がん患者 早期リハビリで日常取り戻す

(2012年11月20日) 【中日新聞】【朝刊】 この記事を印刷する

手術翌日から歩行 一度失った機能回復も 県立静岡がんセンター 

画像食道がんの術後、理学療法士の指導で呼吸の訓練に励む患者(右)=静岡県長泉町の県立静岡がんセンターで

 がん治療は進歩しているが、患者が治療による体へのダメージや病状の進行で苦しむのは、今も昔も変わらない。その障害を和らげ、日常生活や早期の社会復帰を支えるリハビリテーションの大切さが近年、注目されている。静岡県長泉町の県立静岡がんセンターは、がん患者のリハビリに力を入れ、生活の質の向上につなげている。(林勝)

 「ふらっとしないですか。ゆっくり、歩いてみましょう」。点滴や血圧計など、チューブやコードが何本も体につながれた和田正範さん(49)は、理学療法士らに促され、集中治療室のベッドから立ち上がった。

 和田さんは7時間におよぶ食道がんの手術を前日に受けたばかり。食道と胃の一部、周辺のリンパ節を取るのに、胸と腹、喉元の3カ所を切り開いた。体内で出血が続いており、チューブを通して血液を体外へ除かなければならず、はた目に痛々しい。それでも和田さんは、医師らに見守られながら2〜3分かけて、20メートルほどを歩いた。

 「けがをしたスポーツ選手がリハビリでつらい思いをするのと同じ。少々痛みがあっても、回復するために、やるべきことをやる」。和田さんの声は弱々しいが、早く普通の生活に戻りたい、という強い思いがにじむ。

 手術翌日から一般病棟に移るまでの5日間、毎日午前と午後に歩行や呼吸の訓練をする。担当外科医の後藤裕信さんは「たんを出しやすくさせ、肺炎を防ぐのが第一。腸などの運動も刺激し、合併症を防ぎます。痛いから、だるいからと寝込むのは最悪」と、手術後できるだけ早く体を動かす利点を強調する。

 これらのリハビリにリスクはある。急に体を起こすと血圧低下で意識が薄れ、転倒する可能性も。事故を防ぐため、ベッドから体を起こしたときや立ち上がったときの血圧を細かくチェックする。「医師や理学療法士、看護師がそれぞれの目線で患者さんの状態を把握しながらリハビリをしている」と、理学療法士の岡山太郎さん。患者の様子に異常がないか、常に神経をとがらす。

 食道がんの場合、リハビリのスケジュールは手術前から始まる。呼吸訓練器で息を吸うトレーニングや、歯科医師の協力で口の中をきれいにするケアも。手術後は、歩行や呼吸訓練のほか、飲み込みの練習も大切だ。

 同センターで2007年に食道がんの手術を受けた料理人の米山昭さん(62)は、リハビリに励んで1年以内に仕事に復帰した。「入院中、体がだるくても、運動することで体調の回復を実感できた。強い意志でリハビリに取り組んだことが良かった」と振り返る。別の60代男性は、術後に食べ物が飲み込めなくなり、腸に穴を開け、チューブで栄養補給をする「腸ろう」を数カ月間、強いられた。その間、首回りの筋肉の運動や喉の声帯を締める練習などを続け、飲み込む力を回復させた。

 センターは02年の開院以来、患者の生活や社会復帰、終末期までを支えるがん医療に努めている。手術や抗がん剤、放射線治療をする診療部門と、リハビリテーション科、形成外科、緩和ケア部門などとの緊密な連携が鍵だ。リハビリ科医の田沼明さんは「がんだから仕方ないとするのではなく、リハビリの大切さを多くの人に知ってほしい」と話す。

人手不足の解消が課題

 がん患者のリハビリは、がんの性質や治療法によって内容が多岐にわたる。

 乳がんや子宮がんなどの手術では、リンパ節を取り除くため、リンパ液がたまることで体がひどくむくむ「リンパ浮腫」に悩まされる患者が多い。弾性ストッキングによる圧迫療法と適切な運動の組み合わせが効果的とされる。

 抗がん剤の副作用では、手足のまひやしびれを起こす場合がある。指先の訓練や歩行トレーニングなどで症状を抑えられる。だが、薬の副作用で出血しやすくなっているときは、筋肉に強い負荷がかかる運動を避けるなどの配慮が必要だ。

 がんが骨に転移すると、その部分の強度が落ち、骨折しやすくなる。転移したがんが神経を圧迫してまひが起こり、運動障害を起こすことも。骨折や転倒を避けるため、つえを使うなど安全な歩き方を訓練する。

 末期の患者にとっても、リハビリが有効な場合がある。胸水がたまって呼吸が苦しくなったときには、酸素が効率よく取り込める呼吸法を練習したり、ベッド上での姿勢を工夫したりすると、症状が和らぐ。

 このように、がん患者の多様な苦痛に対応するためには医療者のマンパワーと連携が求められる。しかし、高齢化でリハビリの需要が高まり、各施設とも人手不足。静岡がんセンターのような手厚いケアが提供できる医療機関は少ない。国は2010年度にがん患者のリハビリテーションを診療報酬で認め、患者の生活の質の向上を図っている。

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