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若年性認知症の一つ ピック病 早期に「良い習慣」づけを 

(2013年1月15日) 【中日新聞】【朝刊】 この記事を印刷する

自制力低下し、トラブル  

画像丁寧に掃除機をかける浅井富子さん。部屋に置かれたパチンコ台も症状安定に一役果たした=名古屋市中川区のグループホーム「はるた」で

 若年性認知症の1つ、ピック病(前頭側頭型認知症)は、感情や欲求の抑えが利かなくなり、コミュニケーションの力も落ちていく病気だ。患者が混乱して暴れたり、徘徊(はいかい)や万引を繰り返したりして、介護者が疲れ果てることも多い。ピック病に特徴的な「こだわり」をうまく生かし、生活習慣を安定させていく「ルーティン化療法」が少しずつ広がってきた。名古屋市中川区のグループホーム「はるた」が取り組んだ例を紹介する。 (編集委員・安藤明夫)

施設での取り組み こだわりを逆手に

 浅井富子さん(69)は、「はるた」で一番の働き者だ。

 朝は自室に掃除機をかけ、午後は洗濯物を畳み、夕食の準備に野菜を刻む。いつも無表情で会話もできないが、職員の言葉はよく理解して動く。「白菜は軟らかい部分と硬い部分とで、ちゃんと切り方を変えるんです」と、職員は富子さんの丁寧な仕事ぶりに驚く。

 自室のパチンコ台で遊ぶことも。パチンコが趣味だった富子さんのために、夫の一夫さん(71)が、施設管理者の鬼頭恵津子さんと相談して購入した。「こんなに落ち着いてくれるなんて、夢のよう」。一夫さんはしみじみと話す。

 元看護師の富子さんが、ピック病を発症したのは7年前。近所の家に無断で上がり込んだり、コンロに火をつけたまま外出したりと、目が離せなくなった。不要な物を買い込む癖も出て、やがてはスーパーやコンビニからお金を払わずに商品を持ち出し、たびたび警察の世話になった。

 一夫さんはデイサービスを利用しながら世話をしてきたが、在宅介護が難しくなり、2年前の夏に精神科病院へ。富子さんは混乱して暴れるようになり、見かねた一夫さんが、知り合いの老人保健施設に入れてもらったが、激しい徘徊などに職員たちが疲れ果ててしまった。

 はるたに、富子さんの入所の相談が来たのは昨年春。鬼頭さんは、勉強会で学んだ「ルーティン化療法」を試すことを思い立った。

 何かにこだわり、同じことを繰り返す「常同行動」がピック病の症状の1つ。それを利用して、毎日のスケジュールを固定し、「悪い習慣」を「問題のない習慣」に変えていくのが、この療法の骨子だ。

 鬼頭さんは、興奮を抑える向精神薬を最小限にして、散歩、職員の手伝いなどを日程に組み入れた。一夫さんの協力で、昼食後のドライブも毎日の習慣にした。

 パチンコ台も効果的だった。元気なころは、ギャンブル性の低い1円パチンコによく行っていたが、発症後は他人の席に勝手に座るなどのトラブルを起こし、行けなくなっていた。お気に入りの機種が自室に置かれ、富子さんは、職員の忙しい時間帯を一人で過ごすようになり、安定していった。

 鬼頭さんは「うまくいったのは、スタッフ全員で取り組んだのと、ご主人の献身的な協力があったから。ピック病は誤解や偏見が強く、本人も家族も苦しんでいる。地域社会でも介護の現場でも、正しい理解が広がってほしい」と話す。

 ルーティン化療法は、熊本大教授の池田学さん、元愛媛大教授の故・田辺敬貴さんや作業療法士らが中心となり、十数年前から研究が進んできた。

 研究室のメンバーで、浅香山病院(堺市)の繁信和恵医師は「ルーティン化療法という言葉は、学習会などでかなり知られるようになったと思う。ただ、施設のスタッフ全員が認識して取り組む必要があり、態勢づくりはまだまだ」と話す。

 理想は、診断後の早い時期からデイサービスセンターなどで、同療法に取り組むこと。初期の方が「良い習慣づくり」も容易で、生活上のトラブルの防止につながり、長く社会生活を送れる可能性があるという。

 ピック病 認知症の中で最も多いアルツハイマー病は、脳の海馬(記憶などに関わる器官)や周辺が侵されていくが、ピック病は、思考や意思などに関わる前頭葉、言語の記憶や理解力に関わる側頭葉の機能が低下していく。原因は分かっておらず、治療法もない。

 初期は、アルツハイマー病のような記憶障害、見当識障害(時間、場所などが理解できない)は見られず、自制力が低下したり、人格が変わったり、さまざまな問題行動が出ることが多い。コンピューター断層撮影(CT)や磁気共鳴画像装置(MRI)で診断されるが、診断のばらつきも指摘されており、患者数も諸説ある。常同行動など発達障害と似ている点も多い。

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