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ワクチン 評価 委員の医師と製薬会社 不透明な関係 

(2013年4月23日) 【中日新聞】【朝刊】【その他】 この記事を印刷する

厚労省など 「金額公開 問題ない」

 予防ワクチンの効果について議論する厚生労働省の「ワクチン評価に関する小委員会」(委員長・岡部信彦国立感染症研究所感染症情報センター長=当時)の複数の委員らが、評価対象のワクチンの製造や開発を手掛ける製薬会社から寄付金などを受け取っていたことが分かった。厚労省などは「金額も公開しており、問題はない」としているが、「利益相反」を指摘する声も上がっている。(上田千秋)

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 委員である医師らが同省に申告した資料によると、資金を受け取っていたのは6委員のうち4人。提供していたのは、子宮頸(けい)がんワクチンを製造するグラクソ・スミスクラインとMSD(いずれも本社・東京)、同じく小児用肺炎球菌のファイザー(同東京)、インフルエンザ菌b型(ヒブ)用ワクチンを研究、開発している武田薬品工業(同大阪市)など。

 申告は金額について①50万円以下②50万円超〜500万円以下③500万円超−のいずれかにチェックを入れる方式。大半が50万円以下だったが、MSDから岩本愛吉・東大医科学研教授、武田薬品から宮崎千明・福岡市立西部療育センター長が「50万円超〜500万円以下」の資金を受領したとしている。

 小委員会は2010年8月〜11年3月に開かれ、この3ワクチンを含む9ワクチンについて議論した。いずれも「接種促進が望ましい」という結論に至り、同省予防接種部会に報告された。3ワクチンは今月から、予防接種法に基づいて国が接種を勧奨し、全額公費負担となる定期接種扱いになっている。

画像ワクチン評価の小委員会の委員たちが厚生労働省に提出した申告書

 厚労省は2007年度から、傘下の審議会や委員会の委員に、関係業界の企業から受け取った寄付金などの報告を求めるようになった。金額に加え、過去3年間に①500万円を超える年がある時は、当該社の製品の審議・議決に加われない②50万円超〜500万円以下の年がある時は、意見は述べられるが、議決には参加できない−といったルールを定めている。

 日本は欧米に比べて、医学研究費の中で公的資金の占める割合が少ない。このため、医師が製薬会社から資金提供を受けることは珍しくない。

 同小委員会を所管する厚労省結核感染症課の担当者は「製薬会社と金銭的なつながりのない医師だけで審議会や委員会を開くのは、現実には不可能だ」と説明する。

偏った判断はない

 各製薬会社は「ワクチン開発のために専門家に協力をお願いすることは必要」(グラクソ・スミスクライン)、「医学の進歩をサポートする方法の一つとして寄付をしている」(MSD)、「利益相反の観点から厳格な審査をし、問題ない場合にのみ寄付金を出している」(武田薬品工業)などと説明している。

 委員の医師らも「(資金提供が)議論に影響を与えたことはない」(岡部信彦・現川崎市健康安全研究所長)、「偏った判断が行われていないことは、報告書を見てもらえれば分かる」(池田俊也・国際医療福祉大教授)とし、資金提供と審議は無関係と訴える。

 ただ、異論もある。市民団体「薬害オンブズパースン会議」(東京)事務局長の水口真寿美弁護士は「公開しているからいい、というわけにはいかない。金銭的なつながりがある以上、判断にバイアスがかかる可能性は常にある。それを踏まえた上でのルールづくりが不可欠だ」と話す。

 今回の問題については「実情は企業に頼らないと研究が進まない。お金をもらうこと自体が悪いわけではないが」としつつ、こう指摘する。「当該のワクチン製造会社から資金を受けながら、委員としてその効果を議論するのはさすがに露骨すぎる。別の委員を探す努力をしない厚労省の姿勢にも問題がある」

日本は産学連携 研究費、民間から40% 米では6%

 産学連携に詳しい東京医科歯科大の飯田香緒里准教授らのチームは2012年度、全国の医学部を持つ大学や、研究施設など計88機関にアンケートを実施した。

 46機関から回答を得て、11年度の総研究費の内訳を分析したところ、公的資金が42%、内部運営費18%、民間からの資金は40%だった。

 一方で、米国立科学財団の調査では09年の全米の大学の研究費は、66%を連邦政府と州政府が負担し、民間資金は6%にとどまっていた。

 飯田准教授は「日本で民間の資金がこれほど多いとは思わなかった。民間の資金があれば新しい研究が実現できる可能性が高まる。ただ、誤解もされやすいので、透明性を高めることは必要だ」とコメントする。

利益相反の指摘 

 とはいえ、日本では透明性に関する意識が十分に進んでいるとは言いがたい。文部科学省が11年度に、医学部の有無にかかわらず、全国の大学や高等専門学校などを対象に実施した「産学連携等の実施状況調査」によると、利益相反に関する指針を整備しているのは全体の28%にとどまっていた。「策定を予定している」と合わせても、40%弱しかなかった。

 70社が加盟する「日本製薬工業協会」(東京)が4月から導入した透明性ガイドラインについても、医師サイドから「あまりに拙速だ」「企業側が一方的に策定している」といった疑問の声が上がり、問題の複雑さをうかがわせた。

 厚生労働省小委員会の委員への主な資金提供

 同協会では12年度分から、加盟各社が決算発表後に自社のホームページで医師や医療機関などに支払った寄付金や研究費、原稿執筆料などを公開する予定だった。しかし、こうした反発から原稿執筆料の個別金額公開を先送りするなど一部後退した内容になった。

 日本の医学界で、利益相反の疑いを拭い去るための情報公開が進まないのはなぜなのか。

 NPO法人「臨床研究適正評価教育機構」(東京)理事長で、この問題に詳しい桑島巌医師は「日本の医学界に情報を公開しようという土壌がなかったことに加え、利益相反に伴う深刻な事態に陥った経験が少ないからだろう」と分析する。

画像「日本の利益相反をめぐるルールにはあいまいな点が多い」と指摘する桑島巌医師=東京都板橋区で

 米国では1999年に18歳の少年が感染症で死亡した「ゲルシンガー事件」で重大な利益相反が問題となり、一気にルール作りが加速した。

 日本でも07年、インフルエンザ治療薬「タミフル」の副作用を調べていた医師が、タミフルの輸入販売会社から多額の寄付金を受けていたことなどが発覚。日本医師会や日本医学会が一定の規定を設けたものの、「罰則がないなど、日本のルールにはまだまだあいまいな点が多い」(桑島医師)という。

 「産学協同を頭ごなしに悪いと決めつけるのではなく、金額を含めてすべて公開すれば、自らの業績として評価対象にもなるはずだ。むしろ、進んで透明化していく姿勢が重要ではないか」

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