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ステージ4 がんと生きる 番外編  池田省三さん逝く

(2013年4月27日) 【中日新聞】【朝刊】【その他】 この記事を印刷する

最期まで前を向いて

 生前、言っていた通りに、最期は治療病棟から、基本的には治療をしない緩和ケア病棟に運ばれた。6畳一間ほどの個室。その翌23日午後1時10分だった。本紙の連載「ステージ4 がんと生きる」で、末期がん患者としての生き方を淡々と語った龍谷大名誉教授の池田省三さんは、親族に見守られて逝った。66歳だった。

点滴を受けながら診察室に移動する生前の池田さん=昨年5月23日、東京都中央区の聖路加国際病院で

 介護保険の論客。歯に衣(きぬ)着せぬ物言いで発言を続けた。清掃や買い物、調理といった家事代行が保険のサービスになっていることに「介護保険は、ばあちゃん、じいちゃんのお世話保険ではない」「軽度者へのサービスが手厚すぎる一方、中重度へは不十分。財源のしわ寄せが、より弱者にのしかかっている」。

 一部の介護サービス事業者からは猛反発を受けた。しかし、「問題は問題」と引かなかった。そんな厳しさで、自分をも見つめていた。2010年11月に末期の大腸がんが発覚。手術を受けてから、抗がん剤による治療を受けた。自己負担は一部だが、抗がん剤の薬価は高く毎月100万円単位。「そんなに公金を使ってまで、私に生きる価値はあるのか」と何度かつぶやいていた。

 病状は今年に入って転移した肺の状態が悪くなり、3月には酸素吸入するようになった。それでも生活スタイルは変えず、今月6日には、学生時代の旧友との集まりも予定されていた。

 当日、低気圧が関東地方を襲い、悪天候で中止となったが本人は行く気でいた。急変したのは、翌々日の8日。「調子が悪い」と緊急入院。担当医は「もともと間質性肺炎があり、全身状態も良くない。抗がん剤はもう使わない。あとは本人の体力次第」。一時的に容体は安定し、池田さんは「自宅に戻れるよう、リハビリをする」と話した。

 記者は連日のように見舞った。池田さんは、その都度、きちょうめんに「何も変わらない。報告できることはありません」。だが、食欲は戻らず、ペットボトルのお茶だけ。次第に容体は悪化した。「もう自宅には戻れない。緩和ケアに入る。ありがとう」が記者への最後の言葉だった。

 昨年6月に不定期で始まった連載は14回続いた。記者は、池田さんの自宅近くの喫茶店で定期的に会い、時には居酒屋にも出かけた。

 「人間の致死率は100%。遅いか早いかだけで、それならある程度、余命が分かるがんは悪くない死に方でしょう。それに、生きている限りは、楽しくなければ」と日本酒を傾けた。「大腸がんとの因果関係は疫学的には証明されていないし、『やめろ』とも言われていないので」とたばこも吸っていた。

 「闘病」という言葉は嫌った。「病気、病変といったって、自分の体の一部。自分と闘うというのはおかしい」と、がんとの共生を意識していた。そして何より楽天的だった。抗がん剤の副作用で足がしびれ、髪が薄くなると、大好きなシャーロック・ホームズを気取っておしゃれなステッキと帽子に、マント代わりのグレーのコートを買った。

 末期がんと分かってから、研究の集大成を「介護保険論」(中央法規)にまとめた。呼ばれては講演や研究会にステッキを突きながら出かけた。当初は「短ければ3カ月の命」と言われたが、今年で3度目の正月を迎え、医療スタッフに「私を詐欺師にしてくれましたね」と軽口をたたいた。「がんのおかげで豊かな晩年をいただいた」とまで話していた。

 日本人の3人に1人ががんで亡くなる。高齢化が進む中、がんは身近な病気だ。「私の体験を伝えることが、お役に立つなら」と連載は始まった。末期がん患者としての一つの生き方の紹介は、その目的を十分に果たしてくれたと思う。池田さん、ありがとう。 (鈴木伸幸)  =おわり

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