つなごう医療 中日メディカルサイト

<びわこの光~重症心身障害児・者の今> (5) 認め合える社会を

(2013年5月8日) 【中日新聞】【朝刊】【滋賀】 この記事を印刷する

創作活動 輝く個性

画像粘土を口に含みながら、造形に変えていく戸次公明さん

 粘土を口に運ぶ。土の感触を確かめるようにモグモグと含み、ベッっと作業机に吐き出す。それを繰り返しながら、戸次(べっき)公明さん(60)は、手で粘土をこねながら造形物を次々と生んでいく。1つとして同じ形はない。

 戸次さんには不安、緊張や不満などが原因となり、自己表現の1手段として破壊行為などが表れる強度行動障害がある。14歳のころに第2びわこ学園(センター野洲)に入園。当時は職員やほかの入園者への攻撃がひどく、一時、ほかの精神科病院に転院する話も持ち上がるほどだった。

 それを受け止めたのが粘土だった。第2びわこ学園に粘土室ができた1979年以降、毎日にように粘土室に通い、粘土と向かい合った。すると、戸次さんの創造の才能はすぐに花開いた。

 作品は、91年の信楽の世界陶芸祭で記念切手のデザインに選ばれ、97年にはスイスの「アール・ブリュット(生(き)の芸術)・コレクション」で作品展示。今では日本を代表するアール・ブリュット作家となった。

画像あごで粘土を形作っていく寺田美智夫さん=いずれも野洲市北桜のびわこ学園センター野洲で

 丸い粘土をあごだけで円柱状にし、シルクハットのような形に変えていく。口でヘラをくわえて、造形物の4面に、泣いている顔や笑っている顔、困っている顔などさまざまな表情を描く。

 作り手は入園9年目の寺田美智夫さん(47)。手足は動かない。自由に動かせるのは首から上の部分だけ。粘土は大好きだが、首を痛めないように粘土活動は週に1回。1時間〜1時間半で1作品を目安に創作に励む。

 「自分の力でつくり上げるのが、1番うれしいです」。作品を完成させた後で、粘土に打ち込む理由をこう話し「粘土、楽しいです」と笑った。粘土室担当の職員水津哲さん(43)は「創作活動自体が寺田さんの自信となっている」と目を細めた。

 粘土室には「感触遊び」と言われる活動がある。戸次さんや寺田さんのように、粘土で造形できないほど重い障害がある人もいるためだ。お湯を入れたビニール袋の上で、手を乗せたり、たくさんの小豆で満たした箱に手を入れたり。どろどろにした粘土を顔や頭に塗りたくって遊ぶ人もいる。

 「作品は造形物だけではない。いつもと違う表情そのものが作品だ」と水津さん。脳波上では反応がない障害者でも感触遊びをすると、かすかながら和らいだ表情をすることがあるという。「医学的に説明できない部分も感じている」と話す。

 粘土室をびわこ学園に初めて作った元職員の田中敬三さん(70)はこう言う。「好きなことを死ぬまでやってもらいたい。私たちは素材の提供屋。形づくられた作品は、彼らが土と遊んだ残りのようなものだ」

 故糸賀一雄氏は、自らが創設に携わったびわこ学園に託した願いを、こんな言葉にして残した。

 「この子たちも立派な生産者であるということを、認め合える社会をつくろうということである。この子らが自ら輝く素材そのものであるから、いよいよ磨きをかけて輝かそうというのである。『この子らを世の光に』である」

 重症児・者が自由に自分を表現し、いつもは見せない特別な表情も見せる粘土室。「光」が一層際立つ場所の1つかもしれない。 
  (この連載は梅田歳晴が担当しました)

 アール・ブリュット 美術の専門的な教育を受けていない人が、内面からわき上がる衝動などを表現した、従来の芸術様式にとらわれない独創的な絵画や造形作品を指すフランス語。「生(き)の芸術」と訳される。知的障害者や精神障害者の作品が注目されるが「障害者の芸術」と同義ではない。県内ではびわこ学園のような福祉施設での造形活動から数多くの作品が生み出されてきた経緯があり、県は発信事業に力を入れている。

【関連記事】<びわこの光~重症心身障害児・者の今> (1) 「この子は宝」 家族のつながり
【関連記事】<びわこの光~重症心身障害児・者の今> (2) 無言の〝会話〟が絆に
【関連記事】<びわこの光~重症心身障害児・者の今> (3) 地域の支え
【関連記事】<びわこの光~重症心身障害児・者の今> (4) 地域で生活 可能に
【関連記事】<びわこの光~重症心身障害児・者の今> (番外) 山崎理事長インタビュー

中日新聞広告局 病医院・薬局の求人