つなごう医療 中日メディカルサイト

ADHD治療薬ストラテラ 成人への処方、一定効果

(2013年6月25日) 【中日新聞】【朝刊】 この記事を印刷する

専門医少なく難しい診断 投薬の必要性懸念も

画像市川宏伸さん

 発達障害の1つで、落ち着きがない、物忘れが多い、といった特徴がある「注意欠陥多動性障害(ADHD)」の大人向けの治療薬が昨年承認され、5年ぶりに薬物治療の道が開かれた。どんな薬なのか、医療現場の課題は何かを取材した。(伊東治子)

 関東地方の40代男性は数年前、ADHDと診断された。職場で同僚より仕事が遅く、上司の指示を正確に理解できないことも多かった。たまたまADHDを特集するテレビ番組を見て、「自分も当てはまる」と思い、病院を受診した。

 大人のADHD治療薬はなく、睡眠障害の改善薬を処方された。飲むと判断力が向上したように感じたが、副作用で強い疲労感に襲われ、飲み続けるのが困難だった。

 昨年8月、日本イーライリリー(神戸市)の治療薬「ストラテラ」の18歳以上への処方が認められ、男性は今年4月から飲み始めた。「大きな変化を感じないが、複数の業務をこなすとき、手順を考えるのが少し楽になった気がする」と話す。

 日本ADHD学会理事長で、東京都立小児総合医療センター顧問の市川宏伸さんは「ADHDの特性のうち、多動性と衝動性は成長とともに治まるが、不注意は大人になっても残り、仕事や家事に困難を抱えている人が多い」と話す。

 以前は大人の当事者にも集中力を高める薬が使われたが、強い依存性が問題となり、2007年から使えなくなった。その後、子ども向けストラテラなど2種類の治療薬を17歳までに飲み始めた人に限り、成人期の「継続使用」が認められた。

ストラテラの作用の仕組み

 ADHDの原因は解明されていないが、注意力や判断力をつかさどる大脳の「前頭前野」で、神経細胞間の情報伝達がうまく機能していない可能性が指摘されている。ストラテラには、その情報伝達をスムーズにする作用があると考えられている。

 成人向け臨床試験では投与開始から10週目で、約7割の当事者に一定の症状改善が認められた。一方、吐き気や食欲減退などの副作用もあった。市川さんは「副作用に注意しながら適正使用することで、患者の生活改善が期待できる」と話す。

画像清水誠さん

 ただ、新たな治療薬の登場は、医療現場に課題も投げかけた。市川さんによると、ストラテラが承認された昨夏以降、医療機関には薬の処方を期待して「自分はADHDではないか」と受診する人が増えている。だが、発達障害に詳しい横浜カメリアホスピタル(横浜市)の清水誠医師は「患者は薬に過剰な期待を抱いている可能性があるが、ストラテラに生活を改善するほどの効果があるかは疑問だ」と話す。

 それに大人の発達障害を適切に診断できる医師が、まだ少ないという現実がある。海外の研究では当事者の9割がうつ病、双極性障害、不安障害などの精神疾患を伴うほか、アルコール、違法薬物などへの依存があるとの報告がある。経験のある医師でないと適切な診断と治療は難しい。

 また、大人のADHD診断に使われる質問用紙には「物事を行うにあたって、難所は乗り越えたのに、詰めが甘くて仕上げるのが困難だったことが、どのくらいの頻度でありますか」など、誰にでも思い当たるような症状が書かれている。子どもなら親や教師の客観的な評価なども診断の材料になるが、大人は本人の主観に頼らざるを得ない部分が大きい。

 「正常と障害との線引きが非常に難しい。本人の主張と医師のさじ加減で、ADHDがない人も診断され、投薬される危険がある」と清水さん。さらに「どんな人でも、不況で上司の締め付けがきつくなれば、緊張や睡眠不足でミスをしやすくなる。社会的な要因で生きづらさを抱える人が障害と見なされ、薬物療法に焦点が当たると、本来、解決すべき社会の問題に目が向かなくなってしまう」と、ADHDの診断に慎重さを求めている。

 注意欠陥多動性障害 発達障害の1つで、主な特性に、落ち着きがない多動性、思い付きの行動をしてしまう衝動性、集中力がなく忘れっぽい不注意がある。厚生労働省研究班の疫学調査で「成人の1.65%以上にADHDがある」との推定値が出ている。

中日新聞広告局 病医院・薬局の求人