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〈静岡県立大薬学部生の研究報告〉 (1) アルツハイマーのメカニズム

(2013年8月22日) 【中日新聞】【朝刊】【その他】 この記事を印刷する

攻撃、徘徊の原因追う

画像井出和希さん

 アルツハイマー型認知症は、高齢化率の上昇とともに年々増加している疾患の1つです。2025年には全国で470万人を上回ると試算されています。症状には、記憶障害や見当識障害(自分自身の置かれている状況を理解することが困難な状態)のほか、攻撃的な行動や徘徊(はいかい)といった周辺症状と呼ばれるものがあります。

 この周辺症状は、90%以上の患者さんに現れることが知られており、患者さんや介助者の負担を高めることから改善が望まれます。しかし、これらの症状がどのように現れるのかはまだ明らかではありません。そこで周辺症状の現れる原因について検討しました。

 現在までに知られていることの1つは、アミロイドベータ(Aβ)と呼ばれるタンパク質が、脳内の神経細胞に悪い働きをすることがアルツハイマー型認知症の発症や進行に大きく関与しているということです。また、患者さんの身体の変化に着目すると、記憶の形成に関わる脳の領域の1つである「海馬」の大きさが小さくなることや、ストレスに応答して分泌される糖質コルチコイドと呼ばれるホルモンの分泌が変化するということも報告されています。

 そこで私は、周辺症状が現れる理由の1つとして、ストレスに対する応答性の変化が関わっているのではないかと考え、研究を行いました。はじめに、Aβを用いてアルツハイマー型認知症と類似の記憶障害や攻撃的な行動を示すモデルを作成しました。次いで、このモデルにおける糖質コルチコイドの分泌量を測定しました。その結果、通常よりも血液中の糖質コルチコイドの量が増加していることが明らかとなりました。

 分泌された糖質コルチコイドは、血液を通して脳に移行し、神経の働きに影響します。具体的には、グルタミン酸という興奮性の神経伝達を担う物質の放出を増加させることが知られています。また、糖質コルチコイドの分泌をコントロールする脳の部位として海馬が関わります。

 これらの理由から、海馬の神経細胞のグルタミン酸の放出を解析したところ、アルツハイマー型認知症と類似の症状を示すモデルにおいて、グルタミン酸の放出は増大し、神経の興奮性が高まっているということが分かりました。

 今後、今回の研究成果を糸口として、Aβのストレス応答に及ぼす影響が体系的に理解できれば、アルツハイマー型認知症の治療の可能性を広げることにつながるはずです。
(大学院博士課程1年・井出和希)

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