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がん患者に就労相談 病院で社労士らが対応

(2013年11月19日) 【中日新聞】【朝刊】 この記事を印刷する

高い医療費 治療と仕事の両立図る

画像がん患者の就労相談で、看護師やソーシャルワーカーと情報交換する社会保険労務士の山下芙美子さん(右から2人目)=名古屋市千種区の愛知県がんセンター中央病院で

 がんを患っても、仕事を続けたいと考える患者は多いが、企業側のがんに対する理解はなかなか進んでいない。治療が順調でも、退職や収入減に追い込まれる患者も少なくない。治療と仕事の両立を探る患者のための「就労相談」に乗り出す病院が増え始めた。(相坂穣)

 「病状も職場の状況も、患者によってそれぞれ違う。一緒に考えましょう」。企業の労務管理や年金制度に詳しい社会保険労務士の山下芙美子さん(30)が、がん患者たちに呼び掛ける。

 名古屋市千種区の愛知県がんセンター中央病院で、10月下旬から始まった「就労相談」。相談チームのメンバーに病院の看護師、医療ソーシャルワーカーのほか、これまで医療現場で活動することがあまりなかった、社会保険労務士が加わったのが特徴だ。第2木曜日と第4月曜日の午後の月2回、予約制でがん患者の相談を受け付ける。

 2回目の開催となった14日午後。入院中の60代の女性患者が相談室を訪れ、休職中の給与代わりとなる傷病手当の受給方法などを、山下さんに質問した。

 近く抗がん剤治療を終えて退院するが、しばらくは通院による放射線治療が続き、月10万円近い医療費を負担する必要がある。「働かなきゃ、治療が続けられない」。女性は長年働いてきた会社への復職を望んでいる。「上司にこまめに治療の見通しを伝え、信頼を得ることも大切です」。山下さんの助言に真剣な表情で耳を傾けた。

 「かつて病院は、治療で命を救うことさえ考えていればよかった。今は患者が退院後、いかに働いて生活していくかを考えることも必要だ」。篠田雅幸院長が今回の試みの狙いを説明する。がん患者の5年生存率が50%を超えるなど、「がんが直ちに死と結び付かない“慢性病”のようになってきた、ということが背景にある」という。

 「私も一番困っていたのは、就労相談ができる場がないこと。病院に設置されればいいのにと思っていた」。山下さんはそう言って、自身もがん治療を受けてきた経験を明かした。

 大学2年生だった19歳で、卵巣がんを発症。手術を経て、民間企業に就職したが、間もなく再発して休職。抗がん剤や放射線治療を終えて、職場に復帰しようとしたが体力に不安を抱え、退職を余儀なくされた。

 「がんになっても、働くことができる社会をつくれないか。労働関係の知識を得て考えたい」と、社会保険労務士を目指し、2009年に国家試験に合格。患者を支援する市民団体で活動していたところ、愛知県がんセンターに招かれた。

 「退職を決める前に、上司ととことん話し合うことが大切。病気で何ができなくなったというより、今の体で何ができるのかを説明してほしい」。山下さんは経験を基に患者へ伝えている。

4分の1の人が退職 企業は働ける環境づくりを

 がん治療と仕事の両立支援は、厚生労働省が昨年、企業と医療機関の連携強化を盛り込んだ基本計画をまとめたことで、全国で広がり始めた。

 社会保険労務士による就労相談の導入もその一環。がん患者支援団体・CSRプロジェクト(東京)の副代表理事で、社会保険労務士の近藤明美さんによると昨秋以降、聖路加国際病院、三井記念病院(いずれも東京)、国立がん研究センター東病院(千葉県)などで順次、始まっている。静岡県立静岡がんセンターはハローワークや地元法人会と連携し、就職あっせんに取り組む。

 近藤さんは「現在はがん経験者など知識のある人が中心。今後は一般の社会保険労務士に、いかにソーシャルワーカーらと連携してもらうかの教育が課題」と話す。

 厚労省研究班の2012年の調査報告では、がんと診断された時点で働いていた患者381人に、その後の働き方を聞いたところ、約4分の1の90人が退職。同じ部署で働き続けた人は55.2%だった。「正社員からアルバイトになって減収」「使えない人材と判断されて配転」「休職を希望し、事実上の解雇に」などの声もあった。

 研究班代表で、国立がん研究センターの高橋都部長は「非正規雇用者や産業医がいない企業の従業員ほど、退職しやすい傾向がある。企業向けの勉強会やマニュアルなどを充実させ、がん患者が働ける環境づくりを発信していきたい」と話す。

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