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手術後9人死亡の千葉県がんセンター 放置された内部告発

(2014年5月21日) 【北陸中日新聞】【朝刊】【その他】 この記事を印刷する

10年夏、センター長に問題指摘

"腹腔鏡下手術後の死亡例が相次いでいることが発覚した千葉県がんセンター=千葉市中央区仁戸名町で、本社ヘリ「あさづる」から

 千葉県がんセンター(千葉市)で、腹腔(ふくくう)鏡下手術を受けた患者9人が、手術後に相次いで死亡していた。うち7人は同じ執刀医によるもので、手術ミスの疑いもある。センターに勤務していた麻酔医が県や厚生労働省などに告発していたが、放置されていた。麻酔医は「告発が受け付けられていれば、死亡事例が相次ぐことは防げたのでは」と話す。 (荒井六貴)

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 「父は初期のがんと言われ、すぐに治ると思っていた。でも、手術の後、1日もたたないうちに再手術をすることになって、意識が戻らずそのまま亡くなった」

 千葉県がんセンターで2008年11月、胃がんの腹腔鏡下手術を受け、5カ月後に死亡した男性=当時(58)=の長男(39)は、不信感を募らせる。

千葉がんセンター腹腔鏡下手術での死亡事例

 一部報道で、死亡例が相次いでいることが発覚したのは今年4月。県病院局などによると、08年6月から14年2月にかけ、この男性を含め、胃や膵臓(すいぞう)の一部などを摘出するため、腹腔鏡で手術を受けた9人の患者が、手術後に死亡していた。うち7人は、消化器外科部の指導的立場にあるベテランの男性A医師が担当していた。

 腹腔鏡下手術は、患者の体に数カ所の小さな穴を開け、カメラや器具を入れて行う。開腹手術に比べ、体を傷つける範囲が少なく、患者の負担は小さい。一方で、モニター画面を見ながらの高度な技術が必要で、危険性も高まる。

 実は、12年9月に女性(76)、13年1月に男性(57)の2人が死亡した段階で、センターは外部有識者を招いた事故調査委員会を設置していた。昨年8月にまとまった報告書では、電子カルテの記載不備などを指摘。「腹腔鏡下手術のメリットやデメリットについて患者への説明が十分でなく、センターの倫理審査委員会の合意もなかった」「肝胆膵外科に、経験の深い外科医が手術に参加していれば、重要なアドバイスが得られた可能性が高い」などとした。ただ、この報告書は遺族には示されなかった。

 その後、センター長は、膵臓がんの腹腔鏡下手術を見合わせるよう指示した。だが、今年2月に胆のうと胆管を摘出する手術で患者がまた死亡した。

 膵臓などを摘出する膵頭十二指腸切除術で腹腔鏡を使うのは保険適用外だが、保険請求していた疑惑も浮上している。

 冒頭の08年11月に手術を受けた男性の長男らは、センターが事故調査委員会を設ける前の11年9月、センターの説明に納得できないとして、外部で検証することなどを求める質問状を提出していた。

 センターが12年2月に出した回答は「原因の特定は不可能。胃の手術での死亡例は、現在までありません」と説明。わざわざ「胃」に限定して「死亡例なし」と伝えていた。

 長男は「死亡例を隠したように感じ、誠意に欠けている。父の死はいったい、何だったのか。真相をはっきりさせてほしい」と話す。

 県病院局は「短期間で死亡が相次いだ事態を重く受け止める」として、あらためて外部の有識者による検証委員会を設置することを表明。手術ミスの有無や、手術方法の選択の妥当性、保険の不正請求疑惑などについて詳しく調べるとしている。

退職後は告発できない!?  県も厚労省も動かず

千葉県がんセンターの問題を告発し、調査するよう求めていた志村福子さん=長野県安曇野市で

 センターや県は、遺族が訴えるもっと前から問題を把握していた疑いがある。

 センターの麻酔科医として勤務していた志村福子医師(42)が10年夏から11月にかけ、当時のセンター長や県病院局長らに、口頭やメールで告発していたからだ。

 志村さんは、腹腔鏡下手術で死亡事例が相次いでいることや、歯科医師が無資格で麻酔をかけている実態を伝えていた。志村さんとは別の医師もセンターに改善を訴えていたという。

 県病院局長宛てのメールでは「消化器外科は再手術が頻回で、他の病院に比べ、異常に再手術が多い。中には死亡例もある」「私の統計では1年間に10例以上は再手術です」などと指摘。「センター長は、全く動こうとしない。外圧で変化を生じさせるしかないと考えた」と強調していた。

 告発理由について、志村さんは「大きな事故があったのに、第三者を入れて、検証さえしていなかった。そのまま放置したら、不幸になるのは患者だ」と考えたという。「問題の医師らは、他の選択肢があっても、腹腔鏡にこだわる印象があった。腹腔鏡下手術ができない病院は、患者が集まらないという現実もあった」と話す。

 病院局長からは「今後、私の方で調査する」という返信があったが、具体的に動いた様子はなかった。それどころか、志村さんは、仕事を完全に外される嫌がらせも受け、10年9月に退職に追い込まれたという。

 志村さんは今度は、11年2月、厚労省の公益通報窓口に、実名で告発した。

志村さんの告発に対する厚労省の回答メール。千葉県に相談するよう勧めている=一部画像処理

 郵送とメールで、死亡事例を詳しく説明し「センター長や県病院局長にも申し入れているが、黙殺され改善されない。患者に質の高い適切な治療を提供する理念から、大きくかけ離れている」と対応を求めた。

 しかし、厚労省はそっけなかった。告発の手順を定める公益通報者保護法の要件に該当せず、所管する県に相談してほしいと返信された。保護法で保護の対象となるのは、「労働者」と定められている。志村さんはその時点では退職しており、その「労働者」には当たらないという論法だった。

 現在は長野県安曇野市の病院に勤務する志村さんは、「県が対応しないから、厚労省に告発したのに。厚労省も相手にしてくれず、なえてしまった。あの時、すぐに調査を開始していれば、これほど死亡事例が増えることはなかったのではないか」と残念がる。

 告発を放置したことについて、県病院局経営管理課の海宝伸夫副課長は「告発の有無を含めて調査している。検証委の報告を待つ」とだけコメントした。厚労省医政局総務課は「もっと丁寧に対応できたと考えている。公益通報のルールに縛られすぎず、より柔軟に対応できるよう検討を始めている」と、反省の弁を述べる。

 告発者を守るための公益通報者保護法をめぐっては、数々の欠陥が指摘されている。公益通報制度に詳しい中村雅人弁護士は「通報の適格要件が厳しすぎたり、守らない場合の罰則がないなどの問題がある」と話す。「官僚は、できるだけ仕事をしなくて済むように解釈する傾向がある。告発の受け手の教育や、法改正などを検討すべきだ」

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