つなごう医療 中日メディカルサイト

産湯使わず肌荒れ予防

(2014年9月2日) 【中日新聞】【朝刊】 この記事を印刷する

赤ちゃんに「ドライテクニック」 胎脂を残して皮膚保湿

画像出産直後の赤ちゃん。皮膚を保護する胎脂が足に付着している

 生まれたばかりの赤ちゃんをすぐ産湯に入れず、生後5日目ごろから体を洗い始めるケアが、病院や産科医院で広がっている。「ドライテクニック」と呼ばれ、湯につかることによる体力の消耗を避け、湿疹などの皮膚トラブルも少なくなる。子どもの皮膚疾患に詳しい医師は「本来の皮膚のバリアー機能を保つ、理にかなった方法」と普及を呼び掛けている。(林勝)

 出産直後、血液や羊水を軽くふき取った赤ちゃんの体をよく見ると、豚のラードのような脂がまとわりついているのが分かる。「胎脂」という物質だ。赤ちゃんの体が汚れているようにも見えるが、総合上飯田第一病院(名古屋市北区)の産婦人科は2012年春から、胎脂を洗い流すのをやめた。生後5日目に初めての沐浴(もくよく)をする。

 「皮膚トラブルは確実に少なくなりました」と、助産師の西村千華(ちか)さんは言う。外気にさらされたばかりの赤ちゃんの皮膚は防御機能が未熟。生後すぐに沐浴をしていたころは、肌のかさつきや白い膿(うみ)を伴った新生児中毒疹などのトラブルが頻発していた。

 胎脂を残すようになってからは、肌のきめが良くなり、へその部分も化膿(かのう)しにくくなった。「胎脂は天然の保湿クリーム」と西村さん。ドライテクニックは皮膚を乾燥させるのではなく、胎脂を温存して結果的に皮膚を保湿している。

画像赤ちゃんのおしりに付着した胎脂(いずれも総合上飯田第一病院提供)

 従来と大きく異なる方法に、開始前には「清潔志向の親に受け入れてもらえるのか」といった慎重論もあった。でも、生後すぐの沐浴は赤ちゃんの疲労が激しいことが知られていた。沐浴後に寝入って授乳回数が減り、体重が大幅に減ることも。病院は母乳栄養の推進のため、ドライテクニックを取り入れた。

 「これが赤ちゃんの本当のにおいなんだ」と、母親らの受けは良かった。最初の沐浴では、におい成分まで洗い流していた。赤ちゃんの負担もなくなり、西村さんは「母乳栄養を促すことにも手応えを感じた」と話す。

 愛知県碧南市の岡村産科婦人科も12年3月にドライテクニックを導入し、これまでに2千例以上を行った。導入前は毎日、新生児約20人を沐浴させ、皮膚トラブルを避けるため、全身にローションを丁寧に塗っていた。それでも湿疹が起こり、消炎作用のある外用薬を使うこともしばしば。助産師や看護師の仕事量は膨大だった。

 導入後は皮膚トラブルが激減し、産後の体重減も抑えられたという。看護師長の杉浦尚美さんは「業務の手間が大幅に省かれ、育児指導など、赤ちゃんの成長と母親を支える仕事に専念できるようになった」と手応えを感じている。

「生後すぐ」は体力的にも負担

 国内では関東圏を中心にドライテクニックを導入する医療機関が増えている。亀田総合病院(千葉県鴨川市)の総合周産期母子医療センターでは2006年に始め、これまで6400例以上を数える。センターでは肝炎ウイルスなどの感染症のある母親のお産も扱う。この場合、赤ちゃんへの感染を防ぐために生後直後でも全身を洗浄することがある。

 センターの看護師長、影山ユウ子さん(44)は「沐浴の必要性を助産師同士で話し合ったことがきっかけ」と話す。新生児集中治療室の医師に「生後すぐの沐浴は、赤ちゃんに負担をかける」と指摘されたことも後押ししたという。野生動物では、自分の子でも他の動物のにおいがつくと、子育てしなくなる事例が観察されている。ドライテクニックでにおいを残すと「母乳分泌が促進された」との報告もある。

 同病院の皮膚科医、池田大志さん(37)は「ドライテクニックは、1970年代に米国小児科学会が感染症を減らすために提唱した」と説明。沐浴でけがれを落とすという文化的意味や、見た目の清潔感で普及が進まなかったとみている。日本産科婦人科学会や日本助産師会のガイドラインは病気や分娩(ぶんべん)異常などに対する危機管理に重点を置いており、ドライテクニックについて特に触れていない。

 出産直後に限らず、「乳児や幼児の皮膚はお湯に触れるだけで、バリアー機能を持つ皮脂や保湿成分を失いやすい」と池田さん。「お風呂はぬるめで、つかるのは長くても2〜3分。せっけんの使用も抑え、洗いすぎて皮膚トラブルの悪循環を起こさないように」と訴えている。

中日新聞広告局 病医院・薬局の求人