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衝動抑えられず繰り返し万引き 心の病「窃盗症」

(2014年10月26日) 【中日新聞】【朝刊】【その他】 この記事を印刷する

根底に空虚感 専門医「治療が必要」

画像竹村道夫院長

 衝動的に万引を繰り返す精神疾患「窃盗症」(クレプトマニア)が社会問題となっている。自分の意志では抑えられない病で、やめられずに苦しむ人は少なくない。窃盗は再犯率が高いが、累犯者の中には窃盗症の該当者が一定の割合でいるとみられ、専門家は「治療が必要」と強調する。 (西山輝一)

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 「被告人を懲役1年8月に処す」。今月9日、静岡地裁であった公判。常習累犯窃盗の罪に問われた被告の主婦(49)=静岡市清水区=は法廷で、判決に耳を傾けた。はなをすすり上げる音が時折、廷内に響いた。

 主婦は7月、静岡市内のスーパーで果物などを盗んだとして逮捕された。窃盗の前科は5犯。刑務所にも1回服役したことがあり、昨年9月に出所してから1年足らずの再犯だった。

 主婦は酒を飲まないにもかかわらず、カクテルなども盗んでおり、公判中に「自分の行動に説明がつかない」と述べた。過去に精神科医から窃盗症の診断を受けており、弁護人は「治療に専念させるべきだ」と訴えたが、累犯のため実刑は免れなかった。

 刑務所では、窃盗の再犯を防ぐ指導プログラムは確立されていない。群馬県渋川市には、全国でも数少ない民間の治療施設・赤城高原ホスピタルがあり、竹村道夫院長(69)は「窃盗症の場合、服役しても症状の改善は望めない」と語る。

 窃盗症の定義には諸説あるが、米国の精神医療の診断マニュアルは「盗む直前に緊張が高まる」「盗むときに快感や解放感を得る」などの基準を示している。竹村院長は「盗む衝動を抑えきれない病。生活に困って物を盗んだり、職業的に窃盗をしたりする者とは区別される」と解説する。

 過食症などの摂食障害、アルコールや薬物依存症、不安障害などを併発する患者が多い。睡眠薬などの処方薬を乱用し、めいてい状態で物を盗むこともある。根底には、それぞれが抱える心の空虚感があり、それを埋めようとする中で盗む行動や薬などの物質に依存すると考えられる。

 治療では「自助グループ」の活動が柱。回復を目指す患者同士が参加し、仲間の体験談に耳を傾け、自らの経験も話して過去を振り返る。赤城高原ホスピタルでは、回復者から話を聴く「プライベートメッセージ」も実施する。

 入院中に症状が再発することも珍しくない。患者が外出中に商品を盗んだ場合、医師に正直に報告させ、迷惑料を加えて返金するように指導している。

 竹村院長は「窃盗症はやめようという意志だけでは回復は困難。病気と認め、治療を受けることが必要」と訴える。一方で、治療施設は全国でもわずか。東京や大阪などで自助グループの活動が増えつつあるが、静岡県内にはまだ広がっていないのが実情だ。

 窃盗症(クレプトマニア) 物を盗む衝動に抵抗できなくなる精神障害。ギャンブル依存などと同じ「行動プロセスの嗜癖(しへき)」に分類される。米国の精神医療の診断マニュアル(DSM−5)では、万引で逮捕された人のうち4〜24%が窃盗症に該当するとの推計もある。

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