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米の尊厳死 日本へ波紋は

(2014年11月7日) 【中日新聞】【朝刊】【その他】 この記事を印刷する

慎重論根強い中 法案提出の動きも…

画像医師から処方された薬を服用し、自ら死を選んだブリタニー・メイナードさん。家族提供=AP

 米国の女性(29)が「尊厳死」を予告して自ら死を選んだ行為が、論議を呼んでいる。女性が住んでいたオレゴン州では尊厳死が法的に認められ、米国内では患者の意思を尊重する声がある一方、反対する意見も出ている。日本でも、議員連盟が法案提出を目指す動きがあるが、影響はあるのか−。(白名正和)

■合法の州に転居

 亡くなったブリタニー・メイナードさんは、結婚直後の1月に脳腫瘍と診断され、4月に余命半年と宣告された。住んでいたカリフォルニア州から、「Death with Dignity Act」(尊厳死法)があるオレゴン州に転居した。1997年、米国内で初めて尊厳死を認めた法律で、「active euthanasia」(積極的安楽死)も認めており、メイナードさんは1日、医師から処方された薬を服用して命を絶った。

 米国内ではワシントン州やモンタナ州などでも同様の措置が認められている。国内で「痛みや苦しみのない形での死」を容認する声がある一方、「自殺を助長する」という反対意見も少なくない。

 日本ではまったく許されていない。日本で医師が患者を死なせる目的で薬の処方や投与をしたら、殺人か自殺ほう助の罪に問われる恐れが強い。

終末期医療における患者の意思尊重法案

 日本でも、法制定を求める動きはあるが、日本尊厳死協会職員の高井正文さんは「今回の米国のケースは、私たちが使う『尊厳死』とは意味合いが異なる」と指摘する。「病気で苦しむ前に死ぬと決めて実行したメイナードさんの行為は、尊厳死よりも安楽死や自殺の方が近いだろう」という解釈だ。

■薬投与は対象外

 協会は尊厳死を「不治かつ末期の病態になったとき、自分の意思で延命措置を中止し、人間としての尊厳を保ちながら迎える死」と定義する。延命措置を断った結果の自然死のイメージで、積極的な薬の投与などは認めない。

 日本学術会議が2008年にまとめた終末期医療のあり方に関する報告書では、尊厳死を「過剰な医療を避け、尊厳を持って自然な死を迎えさせることを出発点として論じられている概念」と定義。一方で、薬物などを投与して患者の生きる期間を短くする狭義の安楽死は「医療行為の範疇(はんちゅう)を逸脱する」として議論の対象から外した。

 日本尊厳死協会などが要望し、超党派の「尊厳死法制化を考える議員連盟」が2012年に法案をまとめている。「終末期医療における患者の意思尊重法案」だ。

 だが、12年は衆院選、13年は参院選があり、法案は国会に提出できなかった。議連は今年2月に総会を開き、あらためて提出を目指したが、今年も見送られている。国会議員や国民の間に根強い慎重論があるためだ。

画像超党派の国会議員が集まり開催された尊厳死法制化を考える議員連盟総会=2月20日、東京・永田町で

 現在は来年1月の通常国会への提出を目指している。協会などで法案の趣旨について周知していくというが、高井さんは「メイナードさんの行為が尊厳死とみなされるようになると、根本的な部分で誤解されてしまう」と戸惑いを話す。

 一方、立命館大の立岩真也教授(社会学)は「毎日、人が思うことは揺れる。死にたくないと言えばその間は生きられても、死にたいと言えばすぐに実現してしまう」と尊厳死法の制定には否定的だ。

 「医師による処置の差し控えや停止は、米国の積極的に死に至る行為とは『違う』という主張はあるが、本質的な違いはない。こんなことが繰り返される中、普通に考えれば当たり前でないことが、当たり前にされていくことが心配だ」と指摘した。

 安楽死と司法判断 助かる見込みがなく、苦痛の強い患者などを人為的に死へ導くこと。1991年に神奈川県の東海大病院で主治医が末期がん患者に塩化カリウムなどを注射、患者が死亡した事件で、横浜地裁判決(95年、確定)は、医師による「安楽死」が認められる要件として(1)患者に耐え難い肉体的苦痛がある(2)死期が迫っている(3)苦痛緩和の方法を尽くし、ほかに手段がない(4)生命短縮を承諾する本人の意思表示がある−を示した。しかし、98年に医師が患者の気管内チューブを抜き、筋弛緩(しかん)剤を投与して死なせた川崎協同病院事件など要件を満たさないケースが相次いでいる。両事件で、医師はいずれも殺人罪に問われ有罪が確定した。

尊厳死が認められている州

 米オレゴン州の尊厳死法 2人の医師が余命半年未満と診断した18歳以上の末期患者の要請に基づき、医師が致死量を超える薬剤を処方、患者が自分で服用することを認める内容。住民投票での可決を受け1997年から実施された。これまでに実施した人の9割以上が白人で高学歴の傾向があり、6割以上ががん患者だった。2013年に薬を服用し亡くなった人の平均年齢は71歳。

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