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〈ニュースを問う〉 盗む病「窃盗症」

(2014年11月23日) 【中日新聞】【朝刊】【その他】 この記事を印刷する

「治療が必要」との認識を

画像窃盗症の患者らが参加する自助グループの部屋=群馬県渋川市の赤城高原ホスピタルで

 物を盗む衝動を抑えきれず、窃盗を繰り返してしまう病がある。「窃盗症」(クレプトマニア)と呼ばれる精神障害だ。刑罰だけで再犯を防ぐことは難しい。専門の治療による社会復帰の道筋を考えるべきだ。

 「被告人を懲役1年8月に処す」。10月上旬、静岡地裁で開かれた公判。被告の主婦(49)は涙を浮かべながら判決を聴いた。

 主婦は、スーパーで食品を盗んで逮捕され、常習累犯窃盗罪で起訴された。窃盗の前科5犯。酒を飲まないのに、カクテルを盗んでいた。「自分の行動に説明がつかない」。公判ではそう話した。精神科医から窃盗症の診断を受けており、弁護人は「治療に専念させるべきだ」と主張。減軽はされたが、実刑は免れなかった。

服役効果小さい

 「窃盗症の場合、刑務所に服役しても再犯を防ぐ効果は小さい」。全国でも数少ない窃盗症の治療施設・赤城高原ホスピタル(群馬県渋川市)の竹村道夫院長(69)はそう指摘する。

 窃盗症の定義には諸説あるが、米国の精神障害の診断マニュアルは「物を盗むときに快感や解放感を得る」などの基準を示す。過食症などの摂食障害、アルコールや薬物の依存症、不安障害などを併発する人が多い。

 赤城高原ホスピタルでの治療の様子を取材した。患者同士が自助グループに参加して互いの体験談に耳を傾け、自らの過去を振り返る。

 30代の女性は初めて参加したとき、同じ悩みを抱える人がいることに「目が覚める思いがした」という。誰にも言えなかった過去を、自分も打ち明けた。万引で複数回の逮捕歴があり、入院前にもスーパーで食品を盗んで捕まった。目の前に警備員がいて「確実に捕まる」と分かっていても、止められなかった。

 「食べ物が近くにないと不安だった」。長らく過食症を患い、盗んだ物を食べては吐いていた。北陸地方にある実家では親たちのけんかが絶えず、小学生のときに自分で料理をして家族に振る舞うと、雰囲気が和んだことがあった。「料理をすれば家族が丸くなる」。そんな思いで料理を手伝う日が続いたが、次第に心の負担となり、中学生になると摂食障害を発症した。

 大学に進んでから精神科を受診したが過食症は治らず、アルコールにも依存。左手首には、自ら切った傷痕が幾筋も残る。すべて「つらい感情から楽になりたい」ためだった。盗みをやめようと心理療法を試したが、効果は上がらなかった。「万引をやめられないのは、性格の歪(ゆが)みのせいだ」と思い込んでいた。

 自助グループで体験を打ち明けると「話してくれてありがとう」と言われ、救われたような気持ちになった。今は回復へ一歩ずつ進んでいる。

 治療中に症状が再発することも珍しくなく、患者が外出先で物を盗んでしまった場合、同病院では迷惑料を加えて返金するように指導している。竹村院長は「辛抱強く治療を続ければ、回復は期待できる」と訴える。

根底に空虚感も

 窃盗症やギャンブル依存症、薬物依存症などの精神疾患には、発症の仕方に共通点がある。竹村院長によると、心に抱える「空虚感」を埋めようとする中で、依存の度合いが深まると考えられる。

 窃盗症が疑われる人を取材すると、「生きづらさ」を抱えた人が多いように感じた。数万円を持っていながら、スーパーでミカンを盗んだ静岡市の70代の女性は、20年間にわたってうつ病を患い、睡眠薬を毎日飲んでいた。法廷では「しないつもりでも手が出てしまう」と話した。

 ギャンブル依存症に悩む40代の男性は学生時代にいじめを受け、パチンコ店が「居場所」になっていた。睡眠薬に依存する60代の女性も、職場や家庭のストレスから重い不眠症に苦しんでいた。

 4回目の服役生活を送る男性(65)は、10通に及んだ記者との手紙の中で「再犯を防ぐ教育を受けたかった」とつづっていた。

 「私自身、頭が狂っていたかもしれません。夜も眠れませんでした」「またやってしまった、またやってしまった、とつぶやいたことを覚えています」

 自らに言い聞かせるように「今度こそ 今度こそ 必ず更生します」と書き記すが、妻子ら家族とは疎遠になり「出所しても引受先が決まらなければ、どこへ行けばいいのかわかりません」と不安を募らせる。

 被害者がいる犯罪に償いが必要なのは当然だ。しかし、2014年版犯罪白書によると、昨年に窃盗事件で検挙された約14万人のうち、半数近くが再犯者だった。懲役刑を受けても再犯に及ぶ事例が多いのが現実だ。

 裁判所は近年、窃盗症と診断された被告に対し、情状酌量して判決を出すケースが増えている。本人の回復のため、そして再犯を防いで被害を増やさないためにも「治療が必要な病」だという認識を広く共有したい。(東海本社経済部・西山輝一)

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