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人質事件どう教える

(2015年2月23日) 【中日新聞】【夕刊】【その他】 この記事を印刷する

背景、歴史学び 抱えた不安 話し合う

画像号外を手に険しい表情を浮かべる通行人ら=1日、名古屋市中区の金山総合駅で

 ジャーナリスト後藤健二さん(47)ら日本人2人が殺害された過激派組織「イスラム国」(IS=Islamic State)による人質事件を、子どもたちにどう教えるか。教育現場が模索している。「表面的、感情的な受け止めで終わってほしくない」。残虐な映像で不安や恐怖心をあおるだけではなく、その背景や歴史を考えさせる授業に取り組んでいる。(社会部・奥田哲平)

 時計の針は午後2時50分を指していた。「先生、72時間たったよ」。1カ月前の1月23日。長野県駒ケ根市の県立赤穂高で地理の授業中、ある生徒が春日雅博教諭(54)に声を上げた。ISが殺害予告映像を公開し、身代金の支払期限とした時刻だった。

 インターネットを駆使して劇場型に進んだ事件は、生徒に強い印象を残した。日ごろ時事問題を活用した授業に熱心な春日教諭だが、取り上げ方に悩んだ。「中東には複雑な背景があり、政治的な考えや表現の自由など、さまざまな問題が絡む」。そんなとき、国際理解を進めるNPO「開発教育協会」(東京)が作成した教材を知った。

 協会が無料でダウンロードできる教材を作ったのは、各地の学校で遺体画像を見せたことが問題化して以降、「現場の教師が萎縮している」と感じたからだ。事務局の八木亜紀子さん(39)は「映像やニュースを見て、抱えている不安や興奮の気持ちを話し合うことが大事。安易に結論付けず、先生も一緒に学ぶ姿勢を見せてほしい」という。

 小学校中学年以上向けの授業案では、事件の認識や気持ちを話し合う内容。「悲しい」「心配だ」といった12の気持ちから近いものを選び、その理由をグループで話し合う。

 中学生以上向けは、「テロリストたちを決して許さない」という安倍首相の発言や「生きていてほしい」との家族の言葉を読み比べ、置かれた立場で異なる見方を考えさせる。後藤さんの「目を閉じて、じっと我慢。怒ったら、怒鳴ったら、終わり」というツイッターも載せた。さらにオスマン帝国からISまでの中東の歴史を8枚のカードで紹介。日本と関わりがある出来事を探したり、「もしイラク市民だったら、どれを重要だと思うか」と問う。教員を中心にダウンロード数は約200件に上った。

 今月中旬、春日教諭は2年生の授業で事件を取り上げた。併せて、自己責任論や報道の意味を論評した新聞記事も配布。「いろいろな意見があることが分かった」という感想が多かったという。春日教諭は、「一番怖いのは無関心。実際に起きていることを授業につなげていくことで、社会の出来事に関心を持ってもらえる」と話す。

残虐映像 見てしまったら 子に「大丈夫だよ」 親から言葉掛けを

 ISが人質を殺害する残虐な映像を見た子どもから、「頭から離れない」などと訴える相談が医療機関に寄せられている。

 浜松医科大の杉山登志郎特任教授(児童青年期精神医学)によると、遺体画像を見た患者数人が、「眠れない」とショックを受けた様子だという。画像はコピーが次々に転載され完全にネット上から消えるのは困難。保護者らが気付かぬうちに、スマートフォンなどで興味本位で目に触れる可能性は少なくない。

 患者はもともと虐待などを受けて精神的に不安定さを抱えているため、症状が出やすかったとみられる。杉山教授は「ほとんどの子は一過性に終わると思うが、親が『見るな』と規範意識をはっきり示すことが大事」とアドバイスする。

 では、実際見てしまった場合は、どう接すればいいのか。あいち小児保健医療総合センター(愛知県大府市)の新井康祥心療科医長は「園児や小学校低学年はショックを受けやすい。関連するニュースを目にする場面を遠ざけ、無理に気持ちを言わせることもしない方がいい」と忠告する。

 その上で「当たり前のことをちゃんと言ってあげて」と保護者が掛ける言葉を、こう助言した。「周りを見てごらん。お父さん、お母さんがいるから大丈夫」

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