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iPS 移植見送り

(2015年6月17日) 【中日新聞】【朝刊】【その他】 この記事を印刷する

理研など 複数の遺伝子変異

iPS細胞による網膜再生の臨床研究

 人工多能性幹細胞(iPS細胞)から作った網膜の細胞を、視野がゆがむ「滲出(しんしゅつ)型加齢黄斑変性」の患者に移植する世界初の臨床研究で、2例目の患者のiPS細胞に複数の遺伝子変異が見つかり、理化学研究所と先端医療センター(神戸市)の研究チームが移植手術を見送ったことが16日、分かった。

 チームは、このiPS細胞から作った網膜色素上皮細胞を「移植しても安全性に問題はない」と判断したが、手術に踏み切った場合に問題視する声が外部から上がる可能性があると考え、慎重策を取った。臨床研究が始まったばかりのiPS細胞が安全かどうかを判定する方法は未確立で、基準づくりが課題として浮かび上がった。

 今後は、京都大が品質を確認した上で備蓄を進める他人のiPS細胞を利用する方法に切り替える考えで、研究計画を作り直しているという。2例目の移植も将来的な可能性は残すという。

 チームによると、昨年9月に行われた1例目の移植に続き、2例目でも色素上皮細胞のシートを作製し、昨年中に移植する予定だった。しかし、2例目は多くの変異があり、通常は2個1組で存在する遺伝子の片方が欠ける変化もあった。

 変異のうち1つは、がんに関連する遺伝子変異の情報を文献から集めたデータベースに含まれていた。しかしチームは、この変異と発がんの関連を指摘した論文は少なく、網膜色素上皮はがん遺伝子に異常があってもがん化しにくいことから、安全性に問題はないとしている。

 今回の臨床研究では、移植後の細胞ががん化する危険性を減らすため、作製過程で変異が起きていないかゲノム(全遺伝情報)解析をして調べるよう厚生労働省の審査委員会が求めた。ただ、どんな変異にどの程度の危険性があるかを判断する基準は未確立。健常な人にも多くの変異がある。

 iPS細胞を使った再生医療に向けては、パーキンソン病の患者に脳の神経細胞を移植する研究なども計画中。文部科学省は安全性の確保に向けた検討を進める方針だ。

メモ 網膜再生の臨床研究 患者の皮膚細胞から、さまざまな細胞に成長させられるiPS細胞を作る。これを網膜色素上皮細胞に成長させてシート状にし、「滲出型加齢黄斑変性」の患者の目に移植する研究。神戸市の理化学研究所と先端医療センター病院が昨年9月、70代女性に実施し、iPS細胞から作った体の細胞を人体に入れる世界初の研究となった。今年3月までに目立った問題は起きていないとしている。

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