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活用広がる遺伝子診断

(2015年8月25日) 【中日新聞】【朝刊】 この記事を印刷する

新たな病気 DNAで判明 保険適用外で重い負担

画像コケイン症候群とは別の疾患と判明したアミーさん(中央)=家族提供

 遺伝子配列を解析し、乳がんなどの病気のリスクや生まれる前に子どもの障害の有無を調べるのに用いられるようになった遺伝子検査。症状などによる診断が難しい遺伝性疾患の確定診断にも活用されており、長年にわたって誤った治療をされてきた人の病気を特定する事例も出ている。しかし、病気を患う人の治療や確定診断に使う場合の解析も、ほとんどが保険適用外で、患者が個人負担するには検査費用が高いなど定着するには課題もある。(中崎裕)

 名古屋大環境医学研究所の荻朋男(ともお)教授らのグループは今月、幼少期から低身長などの障害が現れる難病「コケイン症候群」とされてきた英国の20代女性が、症状がよく似た別の新種の疾患だったという研究成果をまとめた。

 コケイン症候群は、遺伝情報を記録しているDNAの修復遺伝子の異常による病気。頭や体が小さいといった発育障害のほか、進行すると視力や聴力が低下するといった障害が現れる。通常の5倍の速さで老化が進むとされ、10代から20代で亡くなる人が多い。50万〜100万人に1人が発症する珍しい遺伝性の病気だ。

 病気が判明したのは、アミー・ガートン・ヒューズさん(24)。英国と日本の研究者同士のつながりがあった縁から、日本で解析を受けた。幼少からコケイン症候群が疑われ、16歳で正式に診断された。ところが、この疾患にみられる免疫不全や紫外線(UV)に弱く日焼けしやすいなどの症状がみられなかった。

 荻教授は長崎大原爆後障害医療研究所と共同で、女性の細胞に紫外線を当てても異常がなかったことから、遺伝子配列を分析。コケイン症候群の患者に多い異常は見つからず、放射線で負ったDNAの傷を治す遺伝子「XRCC4」にのみ異常がみつかり、昨年末、コケイン症候群ではなく、この遺伝子の異常による病気と分かった。

 アミーさんは、19歳で脳腫瘍を発症。放射線を避けなくてはいけないことが分かっていなかったことから、脳の萎縮状況を調べるために、コンピューター断層撮影(CT)を繰り返し受けていた。荻教授は「医療被ばくが脳腫瘍を引き起こした可能性がある」と指摘する。

 希少疾患は小児科医も診察経験がほとんどなく、診断がつきにくい。荻教授は「遺伝子を調べることで、不必要に紫外線を避けたり、浴びてはいけない放射線を多く浴びたりするのを防ぐといった適切なケアを選択できる可能性がある」と話す。

 遺伝子解析を診療に活用する動きは、ここ数年、国内でも広がっている。大学病院を中心に構成する「全国遺伝子医療部門連絡会議」には現在、108の医療機関が加盟。検査内容は異なるものの多くが遺伝子検査を実施している。

 その一つの藤田保健衛生大は、昨年8月から遺伝子解析専門のセンターをつくって診断につなげてきた。センター長の倉橋浩樹教授によると、1年間で実施した検査は250件。何の疾患か分からずに、対症療法しかできなかった乳児の病名を突き止めたり、がん細胞の解析によって適切な治療ができるようになったりと、成果を挙げている。

 ただ、課題もまだ山積みだ。日本人類遺伝学会理事長の福嶋義光・信州大教授は「膨大な遺伝子データからどれが疾患と結び付く変異か、解釈が難しい。データベースを整備しているが、まだ過渡期。結果は兄弟らにも影響があり、カウンセリングの充実も必要」と話す。

 加えて、費用の問題も大きい。遺伝子解析は保険適用外。患者1人あたり10万円ほどの費用を研究費から捻出しているのが現状だ。突然変異かどうかを調べるため、両親の遺伝子解析も必要なケースが多く、全額負担となると患者の負担は重い。

 医療ではなく研究として行われていることに、倉橋教授は「当初は成果になるが、数年たつと研究としての意義がなくなり、患者を救う対応は難しくなる」と話している。

 福嶋教授は「今年から法律で治療費助成が決まった306の指定難病のうち、半分ほどは診断に遺伝子解析が必要。しかし、それにはほとんど保険がきかない」と指摘する。

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