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体罰 自閉症の子、絵で発覚 千種の事件

(2015年11月18日) 【中日新聞】【朝刊】【その他】 この記事を印刷する

「ごつんごつん…こらこら…えーん」

画像男子生徒が被害を訴えるために描いた絵=一部画像処理

 名古屋市千種区の市立中学校で特別支援学級を担任する50代の男性教諭が男子生徒の頭を殴ってけがをさせた問題で、生徒の母親が本紙の取材に応じた。問題が発覚したのは、自閉症のため言葉で伝えるのが苦手な生徒が、当時の状況を絵に描いたからだった。母親は「意思を表現するのがもっと難しい子どもだったら、体罰をつかみきれなかったかもしれない」と話す。

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泣きながら帰宅

 母親によると、男子生徒は自閉症でうまく言葉が話せない。特別支援学級に通う生徒の中でも、重度の知的障害がある。

 被害があった10月21日午後、生徒は泣きながら帰宅した。前頭部が腫れ上がり、大小三つのたんこぶができていた。でも、うまく言葉が出てこない。母親は当初「何かにぶつけたのだろう」と思った。

ごつんしたの誰

 すると、右手の拳を頭に近づけ「ごつん、ごつん」。その後「こらこら」「えーん」と少しずつ話し始めた。母親が「誰がごつんしたの」と尋ねると、担任の男性教諭の名前を挙げたという。

 紙と鉛筆を渡すと、教室の机に向かっている生徒の頭に、先生が手を出している絵を描いた。母親はその絵を見て、教諭に殴られたという疑念を深めたという。普段から、思いを伝えにくいときは、絵で説明するように言い聞かせてきた。だから「うそを描くとは思えなかった」という。

 母親によると、その日のうちに教諭に電話で聞くと「ほうきの柄があたったのではないか」などと、体罰を認めなかった。翌日、学校に出向き説明を求めても「絶対にない」と重ねて否定。だが、その後、生徒の絵を示して問いただすと、教諭は殴ったことを認めたという。

 生徒は3年生で、教諭は1年のころからの担任だった。被害後、ほぼ毎夜、突然起きて泣きだすなど不安定な状態が続いているという。母親は「信頼していただけに、ショックは大きい」と話す。

 学校はこれまで、特別支援学級の保護者だけに概要を説明していたが、今後、通常学級の生徒の保護者を対象に保護者会を開く方針を決めた。

SOSどう気付く 障害 気持ち伝えられず ■体や表情見て

 今回の問題では、生徒が絵で伝えられなければ発覚が遅れる可能性もあった。知的障害などで意思をうまく伝えられない生徒が体罰やいじめ被害にあったとき、家族や教師らがいち早く気付くにはどうすればよいのか。

 名古屋市内で発達障害などがある人を対象とした学習施設の運営に携わる30代の女性は「アザや傷がないか、体の様子や表情を注意深く観察し、いち早く異変を察知することが大切だ」と求める。施設には、多様な障害の幼稚園児から社会人まで100人以上が通う。喜怒哀楽の表情と、「楽しい」「悲しい」といった言葉のカードをつなぐ作業を繰り返し、気持ちを伝える練習をしている。この女性は「いざというときのSOSを、少しでも周囲に発信する力を養うため。時間をかけて粘り強く寄り添うことが重要だ」と話す。

 中京大の辻井正次教授(発達臨床心理学)は「コミュニケーションの難しい子どもに対する教育活動は難しく、現場は大変な苦労をしている」と指摘。名古屋市教委の担当者も「担任は日常的に保護者と連携、確認して対応している」と話す。現場の教師は二者択一の質問を何回も繰り返したり、わずかな単語から類推して意思確認をしたり、さまざまな方法で意思を把握するよう努めている。下腹部を押さえたら「トイレに行きたい」といったサインをあらかじめ決める方法や、絵カードを使うケースもある。

 今回の問題は本来、最も身近な大人のはずの担任の教諭が暴力を振るっていた。辻井教授は「子どもの指導にあたり、よい行動を引き出すための訓練が不十分な教師もいることは確か」と話す。

 特別支援教育の専門機関のある職員は「普通学級にも同様の問題はある」としたうえで「特別支援学級はその学級だけで活動する場面が多くなり、学校全体の中で、ほかの教師がその学級のことをどれくらい分かっているかという課題がある」と語った。

 特別支援学級での体罰問題 名古屋市千種区の市立中学校で、特別支援学級を担任する50代の男性教諭が10月下旬、知的障害のある3年の男子生徒の頭を殴って軽いけがをさせた。学校や教諭は事実関係を認め、生徒や保護者に謝罪。その後、教諭がほかにも複数の生徒をたたいたりしていた疑いがあることが分かった。男子生徒の保護者から被害届を受けた愛知県警が、傷害などの容疑で捜査。市教委も調査中で「事実だとすれば厳正に処分する」としている。

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