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〈ニュースがわかる AtoZ〉 乳がん治療・支援の最前線

(2016年1月11日) 【中日新聞】【朝刊】【その他】 この記事を印刷する
乳がんとは・発生しやすい部位・治療

 がん患者の診療情報などを国が一元的に集めて管理する「全国がん登録」制度が、今月から始まった。正確ながん患者数や実態の把握によって、治療法や社会復帰支援などのがん対策が本格化する。特に、女性で最も多い乳がんは、働き盛り世代が多く、治療と生活両面の支援が急務となっている。その現状と課題を紹介する。 (生活部・安食美智子)

効果的な超音波併用 早期発見

 乳房は、母乳を分泌する乳腺と脂肪組織などからできている。乳がんはその乳腺にできる悪性の腫瘍で、半数近くが脇の下に近い部分にできる。

 患者数は1980年からの30年間で約5倍に上り、2011年には7万2千人を超えた。がん研究振興財団の「がんの統計」(2014年)によると、12人に1人の割合でかかると推計されている。初潮の低年齢化や未婚・高齢出産の増加などで乳がんの発生リスクを高める女性ホルモン、エストロゲンの影響長期化が背景にある。わずかだが、男性にも発生する。

 乳がんは、30歳代から急増し、40〜60歳代の働き盛りに多い。日本乳癌学会の患者調査(14年)によると、しこりが2センチ以下でリンパ節転移がないステージI以下は52.3%。この段階では90%が治るとされ、月1回のセルフチェックや検診による早期発見が重要だ。昨年秋、タレントの北斗晶さん(48)が乳がんを公表後、検診希望の女性が増えている。

 国の指針では、40歳以上の女性に2年に1回マンモグラフィー検査を勧めている。同検査は2枚の板に乳房を挟んで薄くし、乳腺や腋窩(えきか)リンパ節の様子を撮影。しこりになる前の早期のがん(石灰化)を見つける。

 しかし、乳腺自体も白く見えるので、若くて乳房が小さく、乳腺が密集している人は画像全体が白くなる。そのため、40歳代でもがんを見落としたり、がんではないのに誤ってがんと判断されることがある。米がん協会は昨年10月、新指針の推奨年齢を現状の40歳以上から45歳以上に引き上げた。

 東北大医学部腫瘍外科学の大内憲明教授は昨年11月、超音波を乳房に当て反射波を画像化する超音波検査をマンモグラフィー検査に加えると、40歳代女性の早期乳がん発見率が1・5倍になったとする論文を発表。検査の併用でがん発見の精度向上が期待されている。

遺伝子検査に関心も 治療多様化

 乳がんの治療は、手術や放射線治療、抗がん剤を中心とした薬物療法を組み合わせるなど、さまざまな方法がある。患者の年齢、がんのタイプ、将来子どもを得たいかどうかなどの希望や患者の生活との両立などを踏まえて、治療方針を決める。

 手術の方式は、しこりの位置や大きさなどで決まる。以前は乳房切除が多かったが、03年以降は、乳房切除よりも、できるだけ乳房を残し、放射線治療や場合により薬物治療も行う温存療法が主流だ。同学会の調査(14年)では温存療法が58・6%、胸筋を残した乳房切除が26・9%と続く。

 しかし、温存しても乳房の形が変わることから、切除して乳房再建を希望する人も増えてきているという。背中や腹などの組織(自家組織)を使う場合とインプラント(人工乳房)を使う場合があり、それぞれにメリット、デメリットがある。

 形成手術で、自家組織による再建は06年から、アラガン・ジャパン(東京都渋谷区)の人工乳房は13年から、公的な医療保険が適用された。同社によると人工乳房は硬さや大きさなどで200種類以上もある。

 遺伝子検査に基づく治療も広がりつつある。13年に女優のアンジェリーナ・ジョリーさん(40)が遺伝子検査で乳がんのリスクが高いと判明し、予防で乳房を切除し、話題になった。

 米国の統計では、「遺伝性乳がん・卵巣がん症候群」(HBOC)は乳がん患者全体の5%程度。乳がんを抑制する2つのBRCA遺伝子に変異がある場合が多い。40歳未満が多く、両方の乳房にがんが発生したり、温存手術後の再発の可能性が高い上、卵巣がんのリスクも高まるという。

 BRCAの遺伝子検査は血液検査で20万〜30万円(自費診療)で、結果判明まで数週間程度。医療関係者によるNPO法人「日本HBOCコンソーシアム」のホームページには、カウンセリングや検査を行う病院などが掲載されている。

社会復帰のサポート 課題は

 乳がんの早期発見のためには、乳がん検診の受診率向上が欠かせない。同学会の調査では、自覚症状がない状態で検診によってがんが見つかった割合は、04年は14.7%だったが、11年には倍近い28・4%に増加し、検診による発見が増えてきてはいる。

 しかし、経済協力開発機構(OECD)の調査で、日本のマンモグラフィー検査の受診率は41%と、最も高いフィンランドの半分程度で、OECD27カ国の平均(58.8%)を18ポイント近く下回るなど世界的には立ち遅れている。検査の痛みやがんの発見を恐れ、受診しないケースも少なくない。

 乳がん患者の治療と生活を支える環境も不十分。特に就労への影響はほかのがんと比べても深刻だ。国立保健医療科学院医療・福祉サービス研究部の福田敬部長が13年度、がんの種類別に入院、通院などで働けない場合の労働損失の年間総額を推計したところ、「乳房」が最多で555億円を超えた。福田さんは「働き盛りの世代への影響が大きいため」と説明する。

 聖路加国際病院(東京都中央区)では、12年から、患者らが仕事と治療の両立を考え、問題解決を図る場として参加費無料の「就労Ring」を設けた。「休職中の生活費や治療費をどうすべきか」「副作用の辛(つら)さが職場に分かってもらえない」などの悩みを抱えた患者を看護師やソーシャルワーカー、社会保険労務士らがサポートする。

 同病院の山内英子ブレストセンター長は「乳がんは治療も長い上、生存率が高く社会復帰する人も多い。海外ではサバイバーとして称賛されるがん患者は、日本ではタブー視されがち。患者が障壁や偏見なく、自分らしく生きられると実感できる社会づくりが必要だ」と訴える。

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