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えびす元社長ら不起訴へ

(2016年2月16日) 【北陸中日新聞】【朝刊】【その他】 この記事を印刷する

裏付け難航 食中毒、書類送検 「厳重処分」意見付けず

 2011年に5人が死亡した焼き肉チェーン「焼肉酒家(やきにくざかや)えびす」の生肉食中毒事件で、富山県警などの合同捜査本部は15日、事前の安全対策を怠ったとして、運営会社の「フーズ・フォーラス」(東京都、特別清算中)の元社長(47)と、生肉を卸した「大和屋商店」(東京都)の元専務(41)を業務上過失致死傷容疑で書類送検した。

 起訴を求める「厳重処分」の意見を付けず、富山地検は不起訴とする公算が大きい。県が最初に被害を公表してから4月で5年となり、業務上過失致死傷罪の公訴時効も4月に迫っていた。肉の生食に警鐘を鳴らし、国が規制を強める契機になった事件の捜査は、誰の刑事責任も問われない結果となる見込みだ。

 捜査は当初から難航した。原因になった生肉が残っておらず、大腸菌という目に見えない存在を相手にしなければならなかったことから、食中毒と管理態勢との因果関係の裏付けは難しい状況だった。

 合同捜査本部はこの日、「運営会社と食肉卸会社による生肉の除菌措置が適切でなかった」とする一方、「具体的な過失を特定できなかった」と説明した。調べに対し、運営会社の社長は「肉に菌が付着していると想定した衛生管理はしていなかった」と話し、食肉卸会社の元役員は「ユッケでの提供は卸先の判断」と主張したという。生肉による食中毒で死者が出た前例もほとんどなく、フーズ社と大和屋が被害を予見できたか、立証できないままだった。

 送検容疑によると、フーズ社元社長と大和屋商店元専務は11年4月、えびす店舗で大和屋が出荷したユッケ用牛モモ肉を提供して5人を死亡、その他82人を負傷させたとされる。死者以外の被害者の特定は菌が検出されたか否かなどで判断した。

 富山県警によると、フーズ社(当時金沢市)が運営していたえびすの富山、石川、福井、神奈川の4県8店舗でユッケなどを食べた216人が下痢や嘔吐(おうと)などの症状を訴え、うち5人が死亡。多くの患者から腸管出血性大腸菌O111が検出された。

 事件を受け、厚生労働省は、肉の生食規制を強化。生食用牛肉のトリミングを罰則付きで義務化し、牛と豚の生食用の提供や販売も禁止した。

 ずさん管理、責任重い

 品川邦汎岩手大名誉教授(食品衛生学)の話 大腸菌のような微生物を完全にゼロにするのは難しいが、適切に処理していれば被害はもっと小さかったはずだ。食肉をずさんに管理した店舗の運営会社や卸会社の責任は重く、刑事責任を問われないからといって許されるわけではない。食品衛生に関わる人たちは万が一のリスクを考えて消費者に提供する責務がある。微生物の状況はすぐに変わってしまうので、警察の捜査では証拠採取に限界があったのだろう。立件断念は非常に残念だ。

 やむを得ない立件断念

 元検事の落合洋司弁護士の話 大腸菌は目に見えないため、どの処理をしなかったから食中毒が起こったのか、原因特定は難しい。刑事責任を問うには非常にハードルが高い事件で、捜査当局が立件を断念したのはやむを得ない。トリミングするべきだったと事後的に指摘することはできるが、過失を問うにはそれで食中毒を防げたと立証しなくてはならず、処理する際に必ず守らなくてはならない基準として業界全体に浸透していた必要もある。一方で、多くの被害者を出した重大事件だったことに変わりはない。遺族への補償や再発防止策は手厚くするべきだ。

 生肉食中毒事件 フーズ・フォーラスが運営した「焼肉酒家えびす」の富山、石川、福井、神奈川4県の8店舗で2011年4月、ユッケなどを食べた客216人が食中毒を発症。うち富山県砺波市の店で食事した6歳男児、70歳と43歳の母娘、14歳の中2男子が死亡。福井市の店で6歳男児が亡くなった。フーズ社は特別清算中。遺族らはフーズ社と生肉を卸していた食肉卸会社「大和屋商店」などを相手に賠償を求める訴訟を東京地裁に起こしている。

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