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狂犬病 日本でも?

(2016年2月26日) 【北陸中日新聞】【朝刊】【その他】 この記事を印刷する

「撲滅」に危機感薄れる 低下続ける予防接種率

画像狂犬病の予防注射を受ける犬=東京都大田区で

 犬に噛(か)まれても狂犬病の心配をしないで済む国は多くはないが、日本はその数少ない国の一つだ。1957年の猫の感染を最後に、狂犬病の発生はない。だが、いま、知識や危機感の低下が心配される。同じく根絶したとみられていた台湾では2013年に約50年ぶりに野生動物の狂犬病感染が確認された。専門家は「いつ日本に侵入してもおかしくない」と警告する。 (中山洋子)

 「狂犬病にならないか」

 最近、奈良市にある「奈良公園のシカ相談室」に、外国人旅行客からの、こんな問い合わせが増えている。従前、年50件ほどだった問い合わせが、15年度は12月末までに86件。そのうち半数以上が外国人からだという。

 吉村明真室長は「シカに不慣れなのは日本人も同じだが、中国や東南アジアなどの観光客は、野生動物に噛まれたら、即座に狂犬病を心配するようです」と反応の違いに驚く。

 世界保健機関(WHO)の推計では毎年、約5万5千人以上が狂犬病で命を落としている。撲滅に成功したのは日本、英国、オーストラリア、ニュージーランドなどわずかしかない。日本では1950年に予防法ができ、その後の7年間で狂犬病を根絶した。

 狂犬病は、ウイルス性の感染症だ。岐阜大の杉山誠教授(人獣共通感染症学)は「人、動物、全ての哺乳類に共通する致死性の高い感染症で、発症したら治療法はなく、ほぼ100%死亡する。悲惨な神経症状も伴う」と説明する。

 唾液にウイルスが多く含まれ、感染した動物に噛まれることで感染が広がる。アジアやアフリカでは、原因のほとんどが犬。欧米では、コウモリやアライグマ、キツネなどの野生動物の感染が確認されている。病名で誤解されがちだが、感染源は犬に限らない。

 「潜伏期間は長く不安定で、1週間から数カ月とばらつきがある。感染から6年という報告もある。感染した動物に噛まれても、すぐにワクチンを必要な回数打てば発症を防げる。空気感染や飛沫(ひまつ)感染はしないので、伝染性は高くない」(杉山氏)

 だが、発生しなくなったためか、狂犬病の基礎的な知識を知らない人が日本では増えている。2006年には、フィリピンで犬に噛まれた日本人男性2人が帰国後に狂犬病を発症して死亡した。

 厚生労働省結核感染症課によると、狂犬病予防法により、ペットの犬は市町村への登録と、年1回の予防接種が義務付けられているが、飼い主が予防接種を受けさせないケースが増えている。20年前に99%だった接種率が、14年度は71.6%。登録犬だけの数字なので、未登録を含めると接種率はさらに下がり、WHOが流行を止める目安とする70%を下回っている可能性が大きい。

 台湾で13年に、野生のイタチアナグマなどの感染が確認されたこともあり、厚労省は自治体に野生動物の調査を求め、警戒を強める。一方で、結核感染症課の担当者は「いま日本にない病気の予防の必要性を説明するのは難しい」と言う。

 杉山氏は「子どもが犬に噛まれても、予防接種をした犬なら『心配ない』と言ってあげられる。いまの管理体制では可能性は高くはないが、海外との交易が広がっており、狂犬病が日本に侵入してもおかしくない」と警告し、予防接種の重要性を訴えている。

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