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〈要介護者のシェアハウス〉(上) 行き場ない高齢者守る

(2016年3月23日) 【中日新聞】【朝刊】【その他】 この記事を印刷する
画像リビングで朝食を食べるお年寄り。みんな要介護状態にある=東海地方で

 「起きてよー」。3月上旬の午前6時すぎ、東海地方の住宅街にある2階建ての民家で、女性の元気な声が響き渡った。部屋で寝る住人たちを優しく起こして回る。

 住人の多くはベッドに座りこんだまま。着替えを手伝い、トイレに行くのを付き添うのに、女性は大忙しだ。7時を回ると朝食の時間。女性が各部屋などに配膳すると、住人はめいめい食事を取り始めた。

 一見、どこにでもある朝の風景だが、違うのは住人はみんな認知症など介護が必要な高齢者で、一つ屋根の下で暮らしていること。女性は夜勤のヘルパーであることだ。

 ケアマネジャーなどとして介護業界で20年近く働く坂(ばん)雅子さん(66)が2013年6月、この民家を借り、「シェアハウス」として運営を始めた。坂さん自身は別の建物で寝起きしているものの、館長である夫の義弘さん(75)はこの民家の居間で共同生活を送る。「高齢者は同居人だからシェアハウス」という。

 高齢者は、家族による介護が受けられない人や、身寄りがない人など、それぞれの事情がある。年金が少なく、入居費が高い有料老人ホームなどに入居できない人ばかりだ。多くのお年寄りとかかわるうち、「一人で自宅で過ごせなくなった人たちを見捨てられなかった」。

 13年10月から住む女性(83)は家族がおらず、生活保護を受けて独り暮らしをしていた。4年ほど前から認知症の症状が出始め、自分の家と勘違いして隣の家に入ったり、外食をしてお金を払わずに店を出てトラブルになったりした。

 近所の住民から相談を受けた自治体担当者は、女性を施設に入所させようとしたが、女性は「絶対に嫌」と拒否。ケアマネとして、女性を知っていた坂さんが「もうここに住めないんだって。一緒に暮らす?」と話すと、女性は「坂さんのところなら」と承諾した。

 坂さんの「シェアハウス」は費用が安い。入居費は、部屋の広さによって月額3万〜4万5千円。食費や光熱費、介護保険サービスの自己負担分を合わせ、最大でも1カ月12万円程度で暮らせる。介護付きの有料老人ホームの半額ほど。「友人や家族のボランティアを活用しているから、この費用でやっていけるんです」と坂さん。

 訪問介護事業所のヘルパー利用は、起床と就寝時の介助のサービスだけ。食事づくりや2時間おきのトイレ介助、洗濯、下着が汚れた場合の対応などは、ボランティアが行い、費用はかからない。

 「でも、もし無届け老人ホームとして行政指導を受ければ、シェアハウスを運営していくのは難しい」と坂さんが声を落とした。

 指導を受けると、一部屋当たりの面積の改善や、消防設備の導入などの改修のため、最低でも数百万円はかかる。費用はそのまま高齢者の入居費に跳ね返る。

 「頼る家族もなく、お金もない人たちはどこに行けばいいのか。ここに住む人の暮らしを守らなければ」。坂さんの決意だ。 (稲田雅文)

 無届け老人ホーム 高齢者が入居し、食事や介護サービスを提供している場合、有料老人ホームとして届け出ることが義務づけられているが、厚生労働省の調べでは、14年10月末現在で全国961カ所を把握。行き場のないお年寄りが増えるに従って、さらに急増しているとみられる。

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