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避難所でも口内ケアを 細菌繁殖で誤嚥性肺炎の恐れ

(2016年5月13日) 【中日新聞】【朝刊】【その他】 この記事を印刷する
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 長引く避難所生活でおろそかになりがちなのが口内ケア。水不足などの事情で歯磨きがしにくく、衛生状況が悪化しやすい。細菌を多く含んだ唾液や食べ物が気管に入って起こる誤嚥(ごえん)性肺炎は高齢者に多く、震災で抵抗力が落ちて口のケアが不十分になれば、震災関連死につながる恐れがある。(新西ましほ)

 「震災後に一度も歯を磨いていない高齢者もいた」。熊本地震発生から9日がたった4月23〜24日、被災地を訪れた東京医科歯科大の中久木康一助教(口腔(こうくう)外科)は語る。

 歯ブラシなどのケア用品は、支援物資として十分に届いていた。ただ、体が不自由な高齢者は十分な手入れができない人もいたという。高齢者施設では、水が貴重なことや人手不足から、1日3回だった口のケアが1回になった施設もあった。

 2007年の新潟県中越沖地震以降、災害時の口内ケア対策に取り組む中久木助教は「口のケアは後回しになりがちだが、おろそかにすれば命の危険につながる」と指摘する。

 阪神大震災では、震災関連死922人のうち、24%にあたる223人が肺炎で死亡。当時診療にあたった歯科医師で、神戸常盤大短期大学部の足立了平教授は、肺炎の多くが誤嚥性肺炎だったと分析する。震災後2週間で口内の感染症が増えたという。

 足立教授は「高齢者は、そもそものみ込む力が低下して誤嚥しやすい」と指摘。睡眠中に唾液が気管に少しずつ入り、気付かない例も目立つ。「避難所生活のストレスや運動不足が、体力や病気への抵抗力の低下を招き、誤嚥性肺炎を起こしやすい」とみる。

 足立教授によると、口の中を清潔にすることで、誤嚥性肺炎の4割は防げる。しかし水が貴重なときには、歯磨きやうがいを控える人が多い。「阪神大震災の時は、人前で入れ歯を外すのをためらう人も少なくなかった」。義歯は、より細菌が付きやすい。就寝前には必ず外し、歯ブラシで磨くことが大切だ。洗浄剤が手に入らない場合は、流水でもいいという。

マッサージで唾液出して

 口腔ケア用品製造のサンスター(大阪府高槻市)は、阪神大震災で多くの社員が被災した経験から、「災害時のオーラル(口の)ケア方法」として具体的なやり方をウェブサイトで公開している=イラスト参照。

 歯ブラシなどのケア用品がない場合は、ぬれたティッシュやハンカチを指に巻いて歯の表面の汚れを取る。食後に15秒ほどうがいをするのも効果的だ。水を節約した歯磨きのこつは、歯ブラシを小刻みに動かすこと。水を1〜2滴でも付けて磨けば、刺激されて唾液が出る。最後に少量の水を口に含んで吐き出すだけで、細菌の固まりの歯こうは随分取れるという。ぬれたティッシュで歯ブラシについた汚れを拭き取りながら行うといい。

 口の中が乾燥すると、細菌に感染しやすい。唾液には加湿に加え、自浄作用がある。唾液を出すために効果的なのがマッサージ。耳の下から顎の下まで、骨の内側の柔らかい部分を指で数秒ずつ押すだけで口の中に唾液が出てくる。

 足立教授は「少しの工夫で口の中のケアはできる。体調を保ちながら被災を乗り越えてほしい」と話す。

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