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〈出産の喜びどこへ 産後うつに悩む母たち〉 (下) 誰もがなる可能性 周りとのつながり大切

(2016年6月10日) 【中日新聞】【朝刊】【その他】 この記事を印刷する
画像酒井さんから産後の母の心について学ぶ親子ら(左)=愛知県長久手市の愛知医科大病院で

 「お母さんになると、得るものがある一方で、諦めたり我慢しなければいけないことも出てきます」

 愛知県長久手市の愛知医科大病院こころのケアセンターで、8日に行われた産後のメンタルケア講座。臨床心理士の酒井玲子さんが、産後1カ月から1年未満の母子3組に語りかけた。

 産後うつ予防と早期発見を目的に2年前から行われており、誰でも参加できる。初回のテーマは「ママだって0歳」。酒井さんが「いいママになりたいと思うことはある?」と問い掛けると、ある参加者は「他のママのようにしなくちゃいけないと思うことがある」と答えた。酒井さんは「世の中が作り上げた理想の母親像に縛られず、自由になって」と応じた。

 講座は約60分で、5回参加してもらう。簡単な心理検査で母親に自分の性格を知ってもらい、ストレスをためずに赤ちゃんとの新しい生活に慣れていく方法を探る。臨床心理士や助産師が母親たちと信頼関係を築き、相談しやすい存在になることを心掛ける。

 酒井さんによると、出産直後の母親はホルモンバランスの変化もあって、心や体が不安定だ。「子どもをかわいくないと思っちゃいけない」とか「赤ちゃんが生活のすべてじゃないといけない」と、思い込んでいる母親が多いという。しかし、「お母さんだって失敗したり、八つ当たりすることだってある。そんな自分を認めるのが第一歩」と励ます。

 産後うつの可能性があっても、精神科の受診をためらう母親が多いため、早く医師や臨床心理士ら専門家に相談してもらうことが大切という。実際、治療につながった受講者もいる。

 一方、妊娠中からうつの早期発見に取り組むのが、周産期専門の精神科外来がある順天堂大順天堂医院(東京都文京区)産婦人科だ。

 妊娠中にうつになると、産後うつにもなりやすいとされている。同院では、出産予定日の1、2カ月前の健診で、英国で開発された「エジンバラ産後うつ病質問票」を用いて、リスクを判定。助産師が面談して、経済状況も含めて家庭環境などを聞き出す。健診に付き添う妊婦の夫や母たちにも「産後うつには誰もがなる可能性がある。いつもと違うと感じたら、早く連絡してほしい」とさりげなく伝えている。

 産後、1カ月健診の後も、必要があれば1年間は母子の様子を確認。育児の相談にも乗る。助産師の礒崎悠子さんは「地域の保健師でも病院でも、母子がどこかにつながっていれば助けられる可能性がある。できる限りサポートしていきたい」と話す。

 インターネットなどで、産後の母たちからの相談に応じている「ママブルーネットワーク」代表の宮崎弘美さん(48)は、「本当に自殺してしまう人と、そこまで至らない人の違いはほとんどなく、紙一重なんです」と指摘する。

 自身も20年前の出産後にうつで苦しみ、自殺未遂を繰り返して2カ月間入院した。宮崎さんはこの経験をきっかけに、臨床心理士の資格を取得。ネットワークの代表として「赤ちゃんがかわいくない」といった母親たちの相談に応じてきた。

 「私だけは大丈夫だとみんな思っている。周りの人が気付いてほしい」(稲熊美樹)

 エジンバラ産後うつ病質問票 「自分自身を傷つける考えが浮かんできた」など、簡単な10問の質問に4段階で答える。国内では、自治体による新生児家庭訪問や、子どもの4カ月健診などの際に実施されている。

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