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〈な〜るほど介護〉嚥下食提供の洋食店

(2016年8月31日) 【中日新聞】【朝刊】【その他】 この記事を印刷する

再び皆で同じ味囲んで

画像嚥下食のランチコースを並べる古橋義徳さん(右)とたず子さん。奥に並ぶのは通常のコース=浜松市北区の食楽工房で

 食事をかむ力やのみ込む力が衰えた高齢者や障害者のため、食べやすいように工夫して料理を提供する店が増えている。誤嚥(ごえん)などを心配して敬遠していた外食を楽しめ、自宅で介護食の世話をする家族の息抜きにもつながっているが、定着に向けては課題もある。(添田隆典)

 皿に盛られた料理は一見、プリンのよう。でも、口に含むと、トロッとしたカニクリームコロッケの味がした。かまずに舌でつぶせ、のどの通りも滑らかだ。

 浜松市北区の洋食店「食楽工房」は全国でも珍しい嚥下食のコース料理を出している。メニューは通常のコースと同じだが、前菜からサラダ、メインの肉、魚料理に至るまで、ゼリー状に加工してある。

 「どれもミキサーに一度かけるんです」。オーナーシェフの古橋義徳さん(65)。通常のコースと同じ手順で調理した後、一品ずつ粉末のゲル化剤や水を混ぜてミキサーにかけ、冷やし固める。野菜には砂糖を足して甘さを引き出し、揚げ物は再度、保温して提供するなど、元の味に近づける。

 かむ力が弱かったり、手が自由に動かなかったりする人には、食材を細かく刻むコースと、食べやすい一口大に切り分けるコースの2種類から選択できる。3日前までに予約を受け、普段の食事内容を聞きながら、調理法を決めている。

 市内の女性(72)は8月上旬、息子の義母(70代)のために嚥下食を注文した。義母は5年ほど前に骨肉腫の手術であごの骨を切除し、家族との外食でも手作りのミキサー食を持参していたという。女性は「店の味は本当に久しぶりだったようで、とても喜んでくれた」と声を弾ませる。

 古橋さんによると、「記念日だからみんなで同じ味を楽しみたい」と、認知症や脳梗塞を患った家族を伴って県外から訪ねてくる客も多いという。

 古橋さんは20代のころから高齢者や障害者の施設で料理のボランティアをした。その経験から、「体が不自由な人でも気兼ねなく食事できる店を持ちたい」と思い、民間資格「介護食士」を持つ妻のたず子さん(63)と、2009年に開店した当初から、介護食を看板メニューの一つにしている。

 ただ、嚥下食は食材が1.5〜2倍必要で加工にも手間がかかるため、早朝からの仕込みが必要だ。通常のコースと同じ値段でやってきたが、昨年から500円値上げした。古橋さんは「喜んでくれるから続けられるが、手間や採算を考えると容易ではない」と話す。

正規メニューでの対応店少なく

 介護旅行を企画・運営する「SPIあ・える倶楽部」(東京)の篠塚恭一社長によると、「要介護者の状態に応じて調理してくれるレストランやホテルは全国に百カ所はある」と話す。

 同社では、介護福祉士などが高齢者や障害者の旅行に有料で付き添って旅先でのサポートをしており、食事面では店側に食材を細かく切り刻む、のみ込みやすいようペースト状にするなどの要望を事前に伝えている。篠塚社長によると、対応店は10年前に比べ2〜3倍は増えたという。

 ただ、大半の店は正規のメニューではなく、個別に事情を聴いたうえで調理している。篠塚社長は「出先や旅先で、介護が必要な人への支援に対する需要が高まれば、介護食を積極的に提供する店も出てくるのではないか」とみている。

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