つなごう医療 中日メディカルサイト

<かんさい現場考> 医学とまちづくり 

(2016年9月17日) 【中日新聞】【朝刊】【滋賀】 この記事を印刷する

超高齢化への処方せん

 「MBT」。聞き慣れない言葉だが、超高齢化社会の処方せんになるかもしれない。Medicine−Based Townの略。医学を基礎とするまちづくりの意味だ。

 「辞書にはない私の造語。将来、辞書に載るようになれば」。生みの親である奈良県立医科大(橿原市)の細井裕司理事長・学長が講演会で胸を張った。

 細井氏はもともと耳鼻科の研究医である。2004年、気導と骨伝導以外に音が内耳に伝わる経路として「軟骨伝導」を発見した。この世界的な発見が、MBTの発想の原点となったという。

 軟骨伝導を活用し、耳の病気で通常の補聴器が使用できない人が使える補聴器を、経済産業省の支援を得て民間企業と共同開発した。健常者向けの軟骨伝導イヤホンや携帯電話の開発にもつなげた。

 この体験を基に医学を基礎とする工学・産業の必要性を訴えた。名付けてMBE(Medicine−Based Engineering)。以前から住環境によって病気を予防し、健康を維持する新たな分野を提唱していたが、MBEを取り込む形で発展させたのがMBTだ。「医学の知恵を注ぎ込んで、付加価値の高いまちづくりを」と考えた。

 この概念に、建築・都市計画研究者である早稲田大・後藤春彦教授が共鳴。2012〜14年に共同研究を実施した。両大学に「医学を基礎とするまちづくり研究所」が設立されている。

 実際にどのようなまちづくりを描いているのか。奈良医大周辺で計画が進むモデル事業が参考になりそうだ。

 キャンパス近くには今井町という伝統的な町並みが残るが、高齢化や人口減少で空き家や空き地も多い。それを活用して地域包括ケアの拠点や介護予防のスペース、住民の健康を遠隔でチェックできる実験住宅を設ける。そこには最新の医学的知見や研究成果を盛り込んでいく計画だ。そのほか医大生や看護師の寮を配置し、住民同士の交流を通して健康をサポートする。都市圏の高齢者の移住を促すプログラムもある。

 実現には、さまざまな分野の企業や行政との連携が欠かせない。企業にとっては、新たなビジネスチャンスにもなる。医療関係者と企業との情報交換の場となる一般社団法人MBTコンソーシアムを立ち上げた。細井氏は「成功するには地域住民や企業の皆さんの理解が大切」と話す。

 医療費の膨張や都市型の生活習慣病などが問題になる中、病院が担ってきた医療の役割の一部を、身近な生活の場に返す取り組みとも言えるだろう。奈良医大といえば、漫画家の手塚治虫さんが医学博士号を取得したことでも知られるが、未来社会を予見した手塚漫画とMBTが重なってくる。(奈良支局長・牧真一郎)

中日新聞広告局 病医院・薬局の求人