つなごう医療 中日メディカルサイト

〈味な提言〉(22) 食べるための挑戦 「おいしい」と感じるまで

(2016年9月18日) 【中日新聞】【朝刊】【愛知】 この記事を印刷する

管理栄養士・小児アレルギーエデュケーター 名古屋学芸大管理栄養学部助教 楳村春江さん

画像

 「食物」とは本来、人が生命を維持するために食べるもの、すなわち、からだのために栄養として摂(と)り込むものです。その「食物」をからだの免疫力が拒絶して受け入れられないのが「食物アレルギー」です。

 食物アレルギーの治療は「避ける」から「食べて治す」への転換期を迎えています。その最前線では、重い食物アレルギーを持つ子どもに対する「経口免疫療法」が行われています。その治療に取り組んだお母さんと少女のお話をします。

 生後6カ月の時、パン粥(がゆ)を食べて症状が出現して「小麦アレルギー」と診断されました。小麦は、パンや麺といった誰もがわかる食品にとどまらず、醤油(しょうゆ)、みそなどの調味料にも含まれています。少女の一家は、この時から小麦を厳密に避ける生活を余儀なくされました。日頃の食事は、すべて母の手作り。小麦の代わりに米粉を使って、パンや麺、ギョーザの皮まで母の手作り。おいしいレパートリーを増やすため、熱心に勉強しました。

 小学校2年生の時、「経口免疫療法」に出合い、小麦との闘いがスタートしました。入院管理の下、治療はうどんを少しずつ食べることです。入院中もアナフィラキシー症状を何度も経験し、それでも頑張ってうどん100グラムまで到達。その後も自宅で毎日、小麦製品を食べる治療が3年間継続されました。「小麦の味がするうどんはもう嫌」という少女に、お母さんはパスタに代えて、さまざまなパスタソースを利用して乗り切りました。

 この治療中、多くの子どもたちはこれまでに経験した症状への恐怖から「食べたい、おいしい」とはなかなか思えません。ただ「みんなと同じ生活がしたい」という一心で頑張っています。保護者も、わずかな誤食でエピペン(緊急時の注射薬)の必要な生活からの脱出を望んでおられます。

 現在、彼女は中学1年生。うどん、パスタ以外にこれまで食べたことのない料理にチャレンジし、食生活を楽しんでいます。「先生、ラーメン、クレープおいしかったよ!」という感想を聞いて、われわれ医療スタッフの方が、胸が熱くなりました。

 「真の耐性獲得」とは、単に量が食べられるだけでなく、アレルゲンであった食物を「おいしい」と感じられること。この治療成績は、家族の協力、母親との連携があってこそであることを、この少女が教えてくれたのです。

 彼女は、小学校の卒業文集に将来の夢を語っています。それは「食物アレルギー児を支える管理栄養士になりたい」でした。自分自身の経験を、将来の社会貢献として考える責任感に感銘を受けました。

中日新聞広告局 病医院・薬局の求人