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終末期医療に本人の意思を

(2016年11月29日) 【中日新聞】【朝刊】 この記事を印刷する

認知症 早期告知の試み

画像もの忘れ外来に新規で訪れた患者に、診断の結果の告知を希望するかを聞く笠間睦さん=津市の榊原白鳳病院で

 榊原白鳳病院(津市)もの忘れ外来の認知症専門医、笠間睦(あつし)さん(58)は今春から、初期段階の認知症患者本人に、認知症であることの告知を試みている。希望する人にはさらに、今後どのように症状が進行するかも伝えている。認知症が進行して終末期を迎えると、本人の希望を医療に反映させるのは難しい。そこで、症状が軽いうちに本人の意向を聞き、最期まで患者の尊厳を保とうという取り組みだ。(稲田雅文)

 「物忘れの病気の代表にアルツハイマー病があります。検査の結果、仮にそうだとしたら病名を知りたいですか?」。このほど、かかりつけ医の紹介で訪れた高齢男性に、笠間さんはこう聞いた。男性は、会話の内容を忘れるなど物忘れが目立つようになり、認知症かどうかを診断してもらうため家族と一緒に来院した。

 男性は「ひどい病気なら落ち込むかもしれない」と返答。脳のコンピューター断層撮影(CT)や問診の結果、初期のアルツハイマー病と診断されたが、笠間さんは本人が希望していないと判断し、病名は家族にだけ告げた。

 認知症の告知は、患者を絶望させかねないため、積極的に行う医師は少ないという。首都大学東京の繁田雅弘教授らが2010年に首都圏の認知症患者の家族399人を対象に実施した調査では、本人が告知を受けたのは43.9%だった。終末期の看取りについて説明されたのは19.8%にとどまる。

 あえて笠間さんが取り組むのは、まだ判断力が残る認知症の初期段階で本人の意向を聞き、終末期医療を患者自身に決めてもらうためだ。

 笠間さんが主治医を務めるアルツハイマー病の80代女性は、肺炎を起こして入院し、家族の希望で鼻からチューブを入れる経管栄養になってから6年半、意識が戻らない。終末期に近づくと口から食事ができなくなり、胃ろうや経管栄養に踏み切るのか、判断を迫られることが多い。

 終末期の医療について家族と話し合っていなかった場合、家族や医師が以前の本人の言動から希望を推定し、代わりに判断することになる。しかし、笠間さんは「実際は本人の希望ではなく、家族や医師の希望になってしまうことが往々にしてある」と話す。

 笠間さんは胃ろうなどを否定しているわけではない。それでも、長い期間、栄養を受け続ける女性の姿は「多くの人にとって、望む終末期ではないのではないか」と映る。

 終末期医療を本人に決めてもらうためには、情報提供が欠かせない。そこで、希望者に病名の告知とともに予後の説明もするようにした。

 11月下旬までの間に新たに訪れた患者15人に聞いたところ、7人が病名の告知を希望。うち4人が経過の説明も望んだ。終末期に行われる処置について長所や短所を説明して希望を聞くと、胃ろうや経管栄養を希望した人はいなかった。「告知が、本人と家族が終末期医療について話し合うきっかけにもなれば」と笠間さんは考える。

 三重県四日市市で10月中旬にあった「認知症サミットin Mie」。39歳で若年性アルツハイマー型認知症と診断され、演台に立った仙台市の丹野智文さん(42)に、笠間さんは「認知症の告知の際に医師に望む伝え方は」と質問した。丹野さんは「病気の説明だけでなく、どう生きていけるのか、希望を与えてほしい。患者会などの居場所や窓口にもつないでほしい」と語った。

 こうした経験から、希望となる情報の提供の重要性を感じた笠間さんは最近「『早期発見→告知』が早期絶望とならないように!」と題したパンフレットを作製し、認知症と診断した人に渡している。一般的な経過の説明とともに、アルツハイマー病は適切に治療とケアをすれば2年程度は進行が目立たないことなどを盛り込んだ。

 笠間さんは「希望の部分を伝えず、ただ病名だけを伝える告知もあると聞く。絶望しない告知の在り方を今後も模索していきたい」と話す。

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