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制度見直し議論に拍車 精神保健指定医「不正取得」で大量処分

(2016年12月27日) 【中日新聞】【朝刊】 この記事を印刷する

 希少な症例リポート方式課題

画像男性医に通知された資格取り消しの命令書(右)と聴聞の通知書(一部画像処理)

 周囲を傷つけたり自傷行為をしたりする恐れがある精神疾患がある患者らについて、本人や家族の同意がなくても、強制的に入院させる権限を持つ精神保健指定医。その資格取得に不正があったとして、申請医、指導医89人の資格を取り消した10月の厚生労働省の決定は、医療界を大きく揺るがした。今後の同省の審議会でも、一定期間の医師業務の停止など、厳しい処分が出される見通しだ。しかし、「個々のモラルより制度そのものが問題」という声も出ており、制度を見直す議論も盛んになってきている。 (編集委員・安藤明夫)

 「寝耳に水でした」

 ある大学病院の精神科に勤務する40代の精神科医男性は、こう話す。指定医の資格取得を目指す医師を教える指導医だが、今回の処分で指定医の資格を取り消された。

 指定医の資格取得には、3年以上の精神科実務経験が必要なほか、資格申請時には統合失調症など6分野で治療や診断に自らが関わった8症例以上についてのリポート提出などの要件がある。そのリポートを点検し、署名するのが指導医だ。リポートの症例は、申請医自身が診た患者に限られ、重複は禁止されている。

 男性の勤務先は症例が豊富で、リポートには困らなかったが、重複を点検する仕組みに不備があった。

 大学病院の精神科の多くは、初期研修医、後期研修医、中堅、ベテランの指導医の4人で1人の患者を診るというグループ診療をしている。「その中で、1つの症例に初期研修医と後期研修医としてかかわった2人が、後になって別々の年にリポートにした。重複を防ぐため症例に番号を付けていたが、データベース化していなかったため、年をまたいでの確認が難しかった。別の病院に異動していて情報交換も不十分だった」と反省する。

 愛知医科大で7人、京都府立医科大で8人など、各地で大量処分となったが、こうした大学病院の多くが「意図的な不正ではなかった」と説明している。

 この問題に詳しい東北医科薬科大講師で精神科医の工藤耕太郎さんは「取り消し処分を受けた中には、意図的な使い回しの例もあったが、後輩の面倒見のいい指導医が無報酬でリポートを見る中で巻き込まれた例も多い。一律に処分することに憤りを感じる」と話す。

 これに対し厚労省の担当者は「確かに同情的な声も聞くが、指導医として適切に指導していたか客観的に判断し、統一的に決めた」と話す。患者の人権を制限できる精神保健指定医は、それだけ重い責任を伴うという考えだ。

 しかし、制度自体のひずみが招いた問題との見方もある。関東地方の中堅精神科医は「リポートのうち思春期の症例が少ないため、症例を得やすい病院に勤務しようと取り合いになる」と話す。関東のベテラン医は「リポートにならない事例には関心を持たない若手もいる」と嘆く。指定医の資格は、勤務医の給与にもプラスになり、若手が皆、指定医を目指す中、“患者不在”の現象が起きているようだ。

 今回の処分を受けて、日本精神神経科病院協会は「試験や研修の方法を改革すべき時期」とする声明を発表。選考に口頭試験を導入すること、研修をグループワーク中心の参加型にすることなどを求めている。厚労省の「これからの精神保健医療福祉のあり方に関する検討会」も、リポートへの指導医の関わり方など、指定医の資格審査の見直し議論を始めた。

 精神科の保健医療の大きな流れは、精神障害者の長期入院を減らし、地域で支える仕組みをつくっていくこと。乗り越えていくべき課題は多い。

 精神保健指定医 精神保健福祉法に基づく資格。精神障害者の強制入院、隔離などの行動制限、措置入院者の退院の判断など、患者の人権に関する権限を持つ。厚生労働相が審議会の意見を聞いて指定、取り消しをする。昨年4月、聖マリアンナ医科大病院(川崎市)で、実際には関わっていない診療リポートなどによる不正取得が発覚。厚労省が2009〜15年7月に資格申請した3300人余りを調査した。今年4月時点で全国の指定医は1万4707人。

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