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AIはがん名医 早期発見、最適治療に期待

(2017年1月1日) 【中日新聞】【朝刊】【その他】 この記事を印刷する
がんのことなら何でも知っている人工知能

 人工知能(AI)でがん治療を支援するシステムの開発が本格的に動きだす。積み上げると富士山より高くなる医学論文や、一人30億文字もある遺伝情報など、人間には手に負えない膨大なデータを分析し、医師を助ける。がんの兆しを早期発見し、それぞれの人に最適な治療法を見つけるのが目標だ。 (科学部・三輪喜人)

 ■一滴の血液で

 「一滴の血液にも、膨大な情報が含まれているんです」。がん治療のAI開発を進める国立がん研究センター研究所(東京都中央区)の浜本隆二さん(がん分子修飾制御学分野・分野長)は話す。

 がん患者の血中には、特有の物質が微量に含まれている。数万個の血液検査データをコンピューターに学習させて、血液一滴から肺がんや大腸がんなど計13種のがんを早期診断できるようにする。「研究が先行する乳がんでは、100パーセントに近い精度の成果が出始めている」と浜本さん。

 AIは大量のデータを学習することで、賢さを増す。あふれる情報の中から、人間が気付かないような発見をすることが期待されている。浜本さんらは医療画像の分析にも取り組む。CT(コンピューター断層撮影)やMRI(磁気共鳴画像装置)の画像データ数十万枚から、AIが、がんの特徴を見つける。

 ■5年後めどに

 がんは「一つとして同じものはない」という。遺伝子のちょっとした違いによって、抗がん剤が効きすぎたり、強い副作用が出たりする。世界中から報告される遺伝子とがん治療との関係を覚えるのも、AIは得意だ。

 浜本さんは「万人に効く抗がん剤はない。最適な抗がん剤を選択できれば、患者さんの負担も減る。医療費の抑制にもつながる」と語る。5年後をめどに、それぞれの患者に合った最適治療の提供を実現させたいとする。

 こうした動きを受け、政府は今夏にも、AIや遺伝子情報を活用したがん個別医療の実行計画を立てる。

 ■ワトソン成果

 医学論文は、毎年どんどん増えており、積み上げていくと、富士山どころか、大気圏外まで届きそうな勢いだという。東京大医科学研究所(東京都港区)の宮野悟教授は、米IBMが開発したシステム「ワトソン」を、がん診断支援に役立てる研究をしている。

 ワトソンは約2千万件の論文要旨を読み込んでいる。東大医科研グループは学習をさらに進め、昨年、診断が難しい白血病患者を実際に見抜くという成果を上げた。「がん患者は待ってくれない。今すぐAIの応用に全力をあげるべきだ。そのためには、もっとデータを集めなくてはならない」と、宮野さんは強調する。

 AIが人間の医師を不要にするわけではない。「経験豊富なベテランがサポートするイメージ。AIが治療の選択肢を示し、人間が最終的な判断をする」と、浜本さんは将来像を語る。AIによって、普通の医師でも世界の名医級の診断ができるようになったら、理想的だ。

画像国立がん研究センター研究所の浜本隆二さん

思いがけぬ創薬の可能性

 高橋隆・名古屋大教授(分子腫瘍学)の話 がんの増悪と抑制には、多くの遺伝子がジャングルの茂みのように絡み合って働いている。それを上から見下ろすように、実験と計算の両面から解明していく必要がある。大量の情報をコンピューターで統合的に分析することで、個別医療への道が開け、思いがけない創薬に結びつくこともあるだろう。

 日本のAI研究の現状 日本は資金力豊富な米国企業に後れをとり、国を挙げて推進する中国にも論文数で負けている。政府は昨年、理化学研究所に国内最大のAI研究拠点「革新知能統合研究センター」を設置した。今月、東京駅近くにオフィスを開き、200人規模の研究者が参加する。杉山将センター長は「海外の巨大企業に比べ研究費は数%だが、逆転のチャンスはある。画像を使った診断支援や、電子カルテの自動解析など、医療分野にも取り組む」という。

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