つなごう医療 中日メディカルサイト

乳幼児期のはしか感染 「数年経て難病」のリスク

(2017年1月10日) 【中日新聞】【朝刊】 この記事を印刷する
画像はしかが原因で、寝たきりになった辻海人さん(左)。右は母親の洋子さん=東京都町田市で

 感染力が非常に強く、昨年、局地的に大流行したはしか(麻疹)。感染から数年後に、体内に残っていた麻疹ウイルスが脳に入って炎症を起こすと、まれに亜急性硬化性全脳炎(SSPE)という難病になることがある。医師は、1歳児の予防接種を確実に行い、親の世代の未接種者も減らすことで、SSPEのリスクを減らすよう訴えている。 (細川暁子)

 東京都町田市の辻海人(かいと)さん(18)が、体に異変を感じたのは2006年の秋、小学2年生の時だった。サッカーが得意だったのにボールをうまく蹴れなくなった。算数の「九九」や漢字を覚えられなくなり、学力が急に低下し始めた。

 病院での検査を受けると、SSPEを発症していることが判明。半年後には歩いたり話したりすることもできなくなり、以来寝たきりの生活を送る。

 海人さんがはしかにかかったのは、生後11カ月の時。1歳から対象のワクチンの定期予防接種を受ける前だった。母親の洋子さんは「病院の待合室で感染したのではないか」と想像する。感染直後は高熱と発疹が出たが、1週間ほどで治まった。洋子さんは「まさか赤ちゃんの時にかかったはしかが原因で、寝たきりになるなんて。はしかの怖さを知らなかった」と話す。

 海人さんの主治医で、国立精神・神経医療研究センター病院(東京都小平市)外来部長・小児神経科医長の中川栄二医師によると、SSPEは麻疹ウイルスが脳に入ったことが原因で起き、徐々に脳の機能が低下する。感染後、数年の潜伏期間を経て発症するのが特徴だ。

 診断は、血液と髄液中の麻疹ウイルスに対する抗体価が大きく上昇していることを確認し、画像検査や脳波検査も実施する。国内患者数は100〜150人とみられる。

 完治のための治療法は確立されていない。抗ウイルス作用があるインターフェロンを腰椎の隙間から注射するか、頭蓋骨に穴を開けて通したチューブから脳に直接注入して、ウイルスの活動を抑える対症療法しかない。発症後数カ月から数年で寝たきりになってしまう例も多い。

 「重要なのは、記憶力の低下や性格の変化、けいれんなどの初期症状で気づくこと」と中川医師。初期に適切な治療を受けると、回復する例もあるからだ。

 洋子さんは患者会「SSPE青空の会」の事務局を務める。同会には現在約50人が登録しており、ほとんどの患者は2歳未満ではしかに感染し、15歳未満で発症した。多くが、予防接種を受ける前に感染したとみられるという。

 中川医師は「免疫機能が不十分な乳幼児期にはしかに感染すると、SSPEのリスクが特に高くなる。確実に1歳児の予防接種を受けることと、親が受けていない場合は早急に受けて、子どもへの感染を防いでほしい」と話す。

関空で流行

 国立感染症研究所によると、2016年1月〜12月18日のはしかの患者数は全国で156人で、15年1年間の患者数35人を大きく上回った。156人のうちゼロ歳は7人、1歳は6人。1歳は全員が予防接種を打っていなかった。

 はしかは局地的に流行するのが特徴で、昨年9月には関西空港の従業員33人が集団感染。三重県四日市市では12月中旬、高速道路のサービスエリアに勤務する20代の女性従業員2人がはしかに感染していることが判明し、市保健所が注意を呼びかけている。

 昨年の流行では、はしか患者がコンサートやイベント会場を訪れており、リスクが十分に知られていないことが背景にあるとみられる。辻洋子さんは「予防接種を受ける前の赤ちゃんもいるので、はしかを広げないように行動してほしい」と訴える。

中日新聞広告局 病医院・薬局の求人