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移植待機 深刻な長期化 伸び悩む「脳死」提供 「生体」頼みに

(2017年1月10日) 【中日新聞】【朝刊】 この記事を印刷する
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 脳死での臓器提供が伸び悩む現状を変えていこうと、愛知県と県内4大学のトップが本年度、NPO法人を設立し、一般市民や臓器提供に関わる医師への啓発活動をより活発に展開する。背景には、欧米先進国と遜色のない移植技術があるのに、提供数が極めて少ないために、生体移植への依存度が高いなど移植医療にゆがみが生じていることがある。 (稲田雅文)

 「目に映る景色が変わりました」。1年前、妻(52)から腎臓の提供を受けた愛知県の男性(54)は、明るい表情でこう話す。

 20年ほど前から検診で腎機能が悪いと指摘されていた。原因は不明で自覚症状はなかったが、一昨年の春ごろから一気に腎不全が進行。「昼はしんどくて仕事の合間に昼寝し、夜はなぜか足がつるので寝られなかった」と振り返る。

 医師からは近いうちに人工透析が必要になると告げられた。頭をよぎったのは、糖尿病で10年間、透析を続け、73歳で亡くなった父親。「自分もあと10年か…」と思い悲観した。

 知人から腎移植という選択があると聞き、近くの大学病院に行ったが、脳死した人からの提供は「長い期間、待たなくてはならない」と説明された。しかし、親族からの提供で生体腎移植が可能とも聞き、妻が提供を決断した。「義父が透析に行くたびに気力を失って帰ってくるのを見ていた。夫の寿命が延びると説明され、決めました」と語る。

 移植前は塩分などに気を使った食事も、今は食べ過ぎを気を付ける程度。足のむくみや肌の黒ずみが消えた。免疫抑制剤をのむ以外は健常者と同様の生活を送れる。「だるさがなくなり、仕事に前向きに取り組めるようになりました」と話す。

 臓器の提供者と移植を待つ患者を結ぶ日本臓器移植ネットワークによると、2015年に脳死を含み亡くなった人が腎臓を提供した移植手術は167件行われた。ただ、腎臓の移植希望登録者は約1万3千人。同年3月までに移植を受けた人は平均14年7カ月、待ち続けていた。

 登録しても提供者が少ないため、男性のように親族からの提供による生体移植に踏み切るケースも多い。日本移植学会によると、15年の生体腎移植は10年前より660件多い1494件。腎移植全体の9割を占め、他の先進国より依存度が高い。

 ただ、腎臓や肝臓、肺などで実施されている生体移植は、提供者の健康な体に傷をつけるという問題が付きまとう。厚生労働省は07年、臓器移植法の運用指針を改正。新たに生体移植の指針を盛り込み「やむを得ない場合に例外として実施されるものであること」とした。しかし、法的な拘束力はない。03年に京都府で肝臓の提供者が、13年には沖縄県と埼玉県で腎臓の提供者が死亡するという事例も起きている。

 3月までに設立予定の「臓器提供推進あいちの会」(仮称)の準備を進める藤田保健衛生大の剣持敬教授は「生体移植は提供できる家族がいない人もいるなど、さまざまな問題を抱える。やはり、脳死での臓器提供を増やしていくべきだ」と話す。

要件緩い「心停止後」が激減

 近年、関係者の間で懸念されているのは、心停止後の臓器提供数の減少だ。家族の承諾があれば提供が可能となり、15歳未満の人からの提供もできるようになった10年の改正臓器移植法施行で、脳死での臓器提供が増えた半面、心停止後の臓器提供は3分の1に減った。心停止後の摘出も可能な腎臓は、提供数が大幅に減っている。

 脳死での提供は設備と体制が整った全国426の病院に限られるのに対し、心停止後は手術室があれば提供可能と、要件は緩い。それでも激減している状況に関係者も首をかしげる。

 心停止後の臓器提供 国内では臓器移植法施行前の1979年から実施されており、主に腎臓と角膜を提供できる。脳死の段階で主治医に提供の意思を伝えると、心停止する前からカテーテルの挿入などの準備をしておき、心停止を待ってから手術室へ移し、臓器を摘出する。

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