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〈14億人の日常〉病院事情(下)医師襲う患者家族

(2017年1月11日) 【中日新聞】【夕刊】【その他】 この記事を印刷する

短い診察 治療費は前払い

画像患者の家族の「襲撃」などに備え、診察室ドアの脇に立つ警備員たち=北京医院で

 中国の病院は、医師や看護師にとって“危険地帯”でもある。治療に不満を持った患者の家族が病院を襲撃する事件が相次いでいるためだ。背景には、医師不足で患者に十分な治療ができない事情や、医師が「もうけ主義」に走っている側面がある。(北京・平岩勇司、写真も)

 政府幹部も利用する北京市中心部の総合病院「北京医院」。内科診察室のドアの脇に、黒ずくめの2人の警備員が立っている。周囲を威圧する鋭い目。病院にそぐわない雰囲気だが、患者らは「診察中の医者は襲われやすいからね」と当然のように受け止める。警備員が警棒を持ったり、防刃チョッキを着けて院内を警備するのは、大都市の病院では日常の光景だ。

 中国の病院で暴力行為を含む医療トラブルは、年間数万件にのぼる。2015年9月に河南省で起きた騒動は特に注目を集めた。脳炎で高熱を出した生後9カ月の男児が病院で死亡したことに親らが怒り、医師や看護師に幼児の遺体を無理やり抱かせ、棺おけで病院の入り口をふさいだ。

画像京の大病院では日常的に警備員が院内を巡回している=北京中医医院で

 昨年11月には山西省の病院で、診察中の女医が後ろからナイフで刺され、重傷を負った。手足口病の娘の治療に不満を持った父親の犯行だった。

 中国メディアは「相次ぐ事件の背景には、診察難と医師のモラル低下がある」と指摘する。

 世界銀行の統計(2007〜12年)によると、中国の医師数は1000人当たり1.9人。日本の2.3人や米国の2.5人より少ない。しかも中国は医学部卒でない「補助医師」も含まれる。医療問題に詳しい中国社会科学院の房莉傑研究員は「優秀な医師は大病院を選ぶことが多い。患者は中小病院を信用せず、大病院に殺到する」と指摘。北京の総合病院に勤める男性医師(40)は「1日に100人以上は診察するのでトイレに行く暇もない。1人当たりの診察は数分程度。全員をしっかり診察している自信はない」と打ち明ける。

 医師側にも多くの患者を診る事情がある。医師の報酬は診察数で増える「歩合制」のためだ。関係者によると、北京で医師の基本月給は1万元(約17万円)程度で、高給取りとはいえない。医師は「稼ぎ」のため多くの患者を診察し、多くの検査を受けさせ、多くの薬を処方する。検査費や薬代で病院の収益を増やすと、ボーナスに反映されるからだ。

 逆に、患者の負担は深刻だ。医療費は基本的に「前払い」制。救急車も前払いで、北京では「3キロ以内50元(約800円)、1キロに付き7元追加」とタクシーのような料金システムだ。病院でも診察や検査、採血のたびに何度も金を払う。手術も前払いで、患者や家族は常に金策に追われる。こうした苦労の揚げ句、愛する身内を失えば、怒りが暴発する家族もいる。

 中国では1951年公布の労働保険条例などに基づき、かつては政府や国営企業が医療費を全面負担していた。改革・開放政策の波は医療界にも押し寄せ、「この30年間で医療の市場化、商品化が進んだ」(房氏)。急激な変化による矛盾が医療暴力という形で噴出しているようだ。

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