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「依存症」誤解正す活動 愛知医科大病院 肝胆膵内科特任教授 中尾春壽さん

医人伝

(2017年1月17日) 【中日新聞】【朝刊】 この記事を印刷する

愛知医科大病院(愛知県長久手市) 肝胆膵内科特任教授 中尾 春壽さん(57)   

画像内科医の立場から、アルコールの問題に取り組む中尾春壽さん

 肝臓がんなどの診療、研究の傍ら、寿命を縮めやすいアルコール依存症の啓発に努める。

 母校の名古屋市立大病院で消化器内科医のスタートを切ったころ、いくら説得しても酒をやめない40代の肝硬変患者がいた。精神科の専門治療を勧めても「酒で死ぬなら本望」と耳を貸さない。内科で黄疸(おうだん)や腹水を治療しても、退院するとまた飲み、悪化する。「もう絶対に飲みません」と涙を流したのは、亡くなる1日前だった。

 なぜ救えなかったのかを自問するうち、依存症への誤解を解くことが必要だと気付いた。

 「本人の意志が弱いのではなく、病気の影響で、飲まないと不快さから抜け出せない脳になっているんです」。問題を認めようとしない心理も、この病気の症状だ。社会の偏見、差別が強いため、なおさらかたくなになる。「専門治療を早く受ければ回復できるのに、医師の中でも『自業自得』『仕方ない』と思っている人もいる」

 アルコール性肝炎を専門とする恩師に勧められ、愛知アルコール連携医療研究会に参加。内科から精神科へのスムーズな橋渡しを進めるために、講演活動や行政への要望などを続ける。外来で、精神科受診を嫌がる患者に「体験者の話を聞いてみては」と断酒会のボランティアとの電話を勧めることもある。

 2013年のアルコール健康障害対策基本法の制定を受け、問題飲酒者を減らし、早期治療につなげる各都道府県の取り組みが本格化していく。「内科の開業医の方たちにも呼び掛けていきたい」と力を込める。

 愛知県岡崎市で診療所を営む両親を見て育った。病気がちの夫を支え、育児、家事をこなし、急患の往診もする母の姿から、全力投球の美しさを知った。高校時代からラグビーを始め、大学を経て医師のチームでも活躍した。「ワンフォーオール、オールフォーワン(一人は皆のため、皆は一人のため)」が人生のモットーだ。

 若い医師や医学生には「理路整然と間違えろ」と指導する。間違った原因を突き止めれば失敗を繰り返さないが、たまたまの正解は無意味。論理的な思考が大切という心構えだ。「アルコールの分野も、一人の患者を救えなかった後悔を突き詰めたら、今の問題意識になった」

 その背を見て育った3人の子も、医師、歯科医師の道を歩む。 (編集委員・安藤明夫)

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