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肺がん患者と医療者が連携 治療、研究に生活の視点を

(2017年1月24日) 【中日新聞】【朝刊】 この記事を印刷する
画像がん患者の就労を考えるシンポジウムで、質問に答える中原博文さん=昨年12月、福岡市で

 肺がんの患者と医療者が協力し、よりよい医療・療養環境を築こうという動きが活発になっている。医療の進歩で、治療しながら長く社会生活を送れる患者が増えたことに加え、「開かれた学会」づくりという世界的な流れが背景にある。医師や研究者らでつくる日本肺癌(はいがん)学会の昨年末に福岡市で開かれた学術集会から、患者や医療者が協働して課題の解決を目指す取り組みを探った。(編集委員・安藤明夫)

 「こんなに元気なんです。働けなくなる時まで、働かせてほしい」

 学術集会のシンポジウム「がん治療と仕事の両立を考える」。患者団体「サミット」代表で津市の中原博文さん(37)は、軽くジャンプして、こう訴えた。

 中原さんは、2014年9月にステージ4の肺がんが見つかり、治療を続けている。転移による二度の脳腫瘍も治療できた。現在は月一度の抗がん剤投与の副作用で数日、床に就くが、それ以外は以前と変わらない生活ができるという。

 しかし、ハローワークに通っても、がんという理由で採用されない。親戚が経営する会社で清掃のアルバイトをしているが、妻子を養える収入にはならない。

 「治療と仕事を両立できる時代になったのに、働かせてくれる企業がなぜないのか。いろいろな就労支援の場を築いてほしい」

 サミットは、肺がんを中心にさまざまながん患者がブログで交流。年に数回、各地でおしゃべり会を開く。仲間との情報交換などを通じて、笑顔で過ごし、患者として生活環境を高めていこうという取り組みだ。

 学術集会には、15年に設立された日本肺がん患者連絡会が協力。3日間を通して、こうした患者や家族向けのプログラムが組まれた。心のケア、食事の工夫、根拠の乏しい医療情報に惑わされないこつなど、幅広い内容だ。

 連絡会の代表・長谷川一男さん(45)=横浜市=は「欧米では、患者が学会に無料参加できるのが当たり前。開かれた学会への取り組みが日本でも進んできて、とてもうれしい」と話す。テレビのディレクターだった長谷川さん自身もステージ4の患者。体力的に就労は難しいが「ワンステップ!」という団体をつくり、医学の最新情報を発信したり、各地で交流イベントを開いたりしている。「臨床情報の検索サイトの使い勝手が悪く、必要な情報を得られない」と改善を要望するなど、医学界や厚生労働省への提言にも力を入れている。昨年12月には、社会啓発や学会との連携を進めたとして、世界肺癌学会の表彰も受けた。

開かれた学会づくりを

 日本肺癌学会は13年、患者団体や製薬企業、報道機関などにも参加を呼び掛けて「肺がん医療向上委員会」を設立。患者中心の医療への取り組みを進めてきた。今回の学術集会では、中原さんら全国の患者14人が交通費の補助を学会から受けて参加し、医学の最新知識を学んだ。集会長の中西洋一・九州大教授は患者交流会であいさつし「医者ばかりの学会では正しい方向に進まない。今は、患者さんや家族から私たちが学ぶ時代」と語った。

 肺がん医療向上委員会の委員長を務める澤祥幸(としゆき)・岐阜市民病院診療局長は「今回のようなプログラムを続けていきたい。そのためにも皆さんの声が大事」と、患者たちに連携を求めた。

 肺がん治療の進歩 肺がんは、がんの中でも死者数が最も多い。進行が早く、脳や骨などへも遠隔転移しやすい上、再発率も高い。しかし、がん細胞を狙い撃ちできて、副作用が比較的少ない分子標的薬が20年ほど前から一般に使われるようになり、遠隔転移のあるステージ4になっても長く社会生活を送ることができる患者が増えた。さらに、がん細胞が免疫にブレーキをかけるのを阻害するオプジーボやキイトルーダが肺がんで保険適用され、延命効果が注目されている。

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