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〈生きる支える 心あわせて〉 認知症で一人暮らし(上)

(2017年1月25日) 【中日新聞】【朝刊】【その他】 この記事を印刷する

役割持ち、生きる自信

画像職員の白木小織さん(左)が見守る中、ブロック遊びをして笑顔になる玉木たつよさん(右から2人目)ら利用者=浜松市南区で

 「今日はカレーを作ります。みんなで協力してくださいね」。浜松市南区の認知症対応型のデイサービス施設「ここ倶楽部(くらぶ)」。年明け早々の朝礼で、職員の元気な呼び掛けが、70〜80代の女性5人の背中を押した。

 「19人分だから、少ない方だね」「ぼちぼちやろうね」。5人は話しつつ、机に積まれたジャガイモの皮をむく。ニンジン、タマネギも、火が通りやすい大きさに切りそろえていく。包丁を扱う手付きは滑らかだ。

 「何作ってるの?」。横を通りかかった職員の質問に、市内で一人暮らしをする玉木たつよさん(88)の手が止まった。「何だったっけ? 忘れた」。噴き出す周囲に、玉木さんの笑い声もいっそう高くなる。

 この施設では、昼食とおやつ作りが午前の日課だ。隣の別施設に通う人の分を含め、多い時は30人分にもなるが、みんなせっせと動き、作業後は野菜くずまできれいに片付ける。「いつもうちでやってたことだから」と意に介さない。

 「介護されていると思うと、本人の気持ちがなえるので、職員のように働いてもらっていますよ」。運営会社「LCウェルネス」の代表、見野(みの)孝子さん(68)は話す。調理のため包丁を持ってもらうが、今まで事故は起きていない。

 見野さんは30年ほど前から、在宅の高齢者を介護するヘルパーの仕事をしてきた。できないことが増え、自宅に閉じこもりがちになる認知症の人が、地域で過ごせる場の大切さを痛感。2012年に施設を始めた。

 施設では、忘れていく不安を絶えず抱える認知症の人が、自分たちで作った料理を食べ、皆にも感謝されることを繰り返す中で、生きる自信を取り戻す姿を見てきた。楽しいことを増やし嫌なことを薄めると、イライラしなくなり暴れなくなると実感する。

 できることは一切手伝わない。尊厳を傷つけないよう、できないことはさせない。これが、施設の基本的な考え。「利用者の持病などを職員同士で共有した上で、その日の体調も見ながら、どこまで手を差し伸べるかを見極めています」。9年前からこの施設で働く介護福祉士白木小織(さおり)さん(43)は心掛ける。

 昼食後は、窓から暖かな日が差す居間で一休み。「カバンのファスナーが壊れちゃった」と困っている玉木さんを見た女性が、別のキーホルダーの金具で瞬く間に修理した。「ありがとう」と目を輝かす玉木さんに、女性が「カバンから財布が見えると、いい人でも気が変わって、とられちゃう時もあるよ」と冗談交じりに笑顔で話す。

 やりとりを見守る白木さんは「私も以前、認知症の高齢者は何もできず、手が掛かると思っていた。でも、実際に接してみると、ほかの高齢者と何も変わらず、教えてもらうことも多いですね」。

 おしゃべりが好きな玉木さんは、いつも話題の中心にいる。風呂に入るため席を離れると、たちまち別の女性が「今日はたま(玉木さん)来てないよね?」。「お風呂だよ。もう忘れてるね」。どこからともなく突っ込みが入り、和気あいあいとなる。

 「認知症の症状を改善することは難しいが、感情の機能は落ちていない。そこを刺激すれば、認知症の人でもその瞬間、瞬間を楽しむことは維持できるし、その人らしさも引き出せます」と見野さん。

 「笑うと病気にならないよね。ここにいると楽しいから、100歳まで生きるよ」。施設で洗濯したタオル干しを手伝いながら、つぶやく玉木さんの顔に笑みが浮かんだ。(出口有紀)

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