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措置入院患者の退院後支援模索 負担増 戸惑う保健師ら

(2017年1月31日) 【中日新聞】【朝刊】 この記事を印刷する

 相模原市の知的障害者施設「津久井やまゆり園」で起きた殺傷事件から半年が過ぎた。厚生労働省の有識者検討チーム(座長・山本輝之成城大教授)は昨年12月、最終報告をまとめ、措置入院患者の「退院後の支援の強化」を再発防止の柱として打ち出した。しかし、具体的に進めていく上での課題は山積。地域の精神保健に取り組む専門職や支援者たちには、戸惑いもある。(編集委員・安藤明夫)

 最終報告書は、植松聖容疑者(27)が事件を起こす前に措置入院先から退院した後、通院を中断し、無断で一人暮らしをするなどしていたことから、「十分な支援を受けられなかった」と指摘。地域の中で見守っていくために、すべての措置入院患者について、措置入院を決める都道府県知事や政令市長が入院中から、退院後の支援計画を策定し、退院後は居住する自治体が計画に沿って支援する必要があると提言した。

 計画は、保健所、退院後の通院先の医師などによる調整会議を開き、入院中の病院からの意見も踏まえて決める=図。支援の底上げ、連携強化が目的だが、保健所などの負担増も懸念されている。東海地方の都市部で、精神保健を担当する保健師は「必要な見守りは、今までもやってきたつもり。関係者を集めて調整会議を開くのは大変な作業で、現実的ではない」と話す。

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 保健所と福祉事務所の統合などで、実質的に職員数が減る中、精神保健の担当者の業務は多忙だ。精神障害を疑われる人が、近隣とトラブルを起こすなどして保健所に通報が寄せられるケースは、頻繁にあるという。事実関係を調査し、本人に精神科の受診を促すなど、時間のかかる対応が必要になる。周囲の理解不足がトラブルの原因と思える例も多いという。

 措置入院では、入院先が遠隔地だったり、患者が退院後に引っ越す例も多く、支援の調整は大変だ。「日常から他機関と顔の見える関係を築くことが何より大切で、やり方は地域によっても違う。一律的に形を決めても有効ではない」と話す。

 薬物依存症のリハビリ施設・三重ダルク(津市)の施設長で精神保健福祉士の市川岳仁(たけひと)さん(46)は最終報告について「精神障害者を社会から排除しない姿勢は評価できる」とする。一方で「植松容疑者の障害者への怒りの裏側には“どうせ俺なんか”という強い劣等感がうかがえる。管理の対象として見守るだけでは、こうした人を支えるのは難しい」と指摘する。

 三重ダルクでは、薬物依存症と発達障害の重複者など、さまざまな人たちが共同で暮らしている。治療のプログラムに消極的な人も排除しないようにと、2年前に「ソーバーリビング」という生活の場を外部にも設けた。つらい人生を歩んできた自分との「和解」が回復の目標で「そのために必要なものが、仲間とのつながり、暮らしの場」だと言う。

 愛知県知多市で精神障害者などの自立支援に取り組むNPO法人「びすた〜り」の事務局長、高山京子さん(52)=精神保健福祉士=は「精神科の在宅診療もほとんどない現状で、医療と福祉のはざまをつなぐ人材が不足している」と指摘。「報告の理念はよいが、現状では苦労して調整会議を開いても、地域の事情を踏まえた建設的な意見交換は難しい」と話した。

 相模原事件 2016年7月26日未明、相模原市の津久井やまゆり園に、元職員の植松聖容疑者が刃物を持って侵入。19〜70歳の入所者が刺され、19人が死亡、27人が重軽傷を負った。植松容疑者は16年2月、障害者の殺害を示唆する発言を繰り返したことから、同市が措置入院を決定。翌月、「他害の恐れがなくなった」との判断で措置が解除されたが、その後の支援は途切れていた。

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