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薬物事件報道 治療に配慮を

(2017年2月14日) 【中日新聞】【朝刊】 この記事を印刷する

市民団体など指針づくり 人格否定、興味本位は禁物

画像薬物報道ガイドラインづくりを呼び掛ける荻上チキさん(右端)、松本俊彦さん(右から2人目)ら=東京都内で

 著名人の薬物事件が相次ぐ中、薬物やアルコールなどの依存症の市民団体や医療、マスコミの関係者でつくる「依存症問題の正しい報道を求めるネットワーク」が、報道のガイドラインづくりを呼び掛けている。麻薬や覚醒剤などの使用の抑止は報道の重要な役割だが、「ワイドショーなどの行きすぎた報道が、患者への差別を助長したり、治療の妨げになっている」という。さまざまな立場の人が連携し、報道のあり方を模索する取り組みが始まった。(編集委員・安藤明夫)

 同ネットワークは昨年7月、薬物やアルコール、ギャンブル依存症関連の団体や、精神科医、研究者らで設立。覚せい剤取締法違反で執行猶予中の元プロ野球選手の清原和博氏や、俳優の高知東生氏、不起訴となった歌手のASKA氏らをめぐる報道に「行きすぎた取材、知識不足による個人攻撃のコメントが目立ち、治療中の人たちの足を引っ張っている」と、協議を続けてきた。

 そして「報道に怒るだけでなく、一緒によりよい形にしていこう」と、世界保健機関(WHO)の「自殺予防 メディア関係者のための手引き」を参考に、ガイドライン案を作成した。

 報道する上で「望ましいこと」として「回復可能な病気であると伝える」などの8項目、逆に「避けるべきこと」として「人格を否定する表現はしない」などの9項目を挙げている。今後、報道関係者の意見も取り入れて、改定していく方針だ。

 ネットワークは1月末、都内で会見。発起人の一人で国立精神・神経医療研究センター薬物依存研究部長の松本俊彦さんは「薬物を一時的にやめるのは比較的容易だが、やめ続けることは非常に難しい」と話し、「薬物事件の報道が治療中の患者の再使用につながるケースもある」と訴えた。

 依存症を起こす薬物は、麻薬や覚醒剤、危険ドラッグ、処方薬などさまざま。否定的なイメージばかりが強調されると、治療中の患者が社会から攻撃されているように感じ、精神的に追い込まれてしまうこともある。また、白い粉や注射器の映像が繰り返しテレビに映し出されるのを見て、記憶が刺激されて心のバランスが崩れ、再び薬物を使ってしまったという人もいる。

 薬物依存などの女性患者が暮らすダルク女性ハウス(東京都北区)の代表で、精神保健福祉士の上岡陽江さんは発起人の一人。「ハウスの女性の85%は虐待などの被害者。治療につながらないと、自殺未遂を繰り返してしまう。依存症は回復可能な病気であることを報道してほしい」と強調した。

 上岡さん自身が薬物の依存症からの回復者だ。苦しんでいた当時、薬物撲滅キャンペーンで「覚醒剤やめますか それとも 人間やめますか」というキャッチコピーがあった。世間では流行したフレーズだが、薬物をやめられなかった当時の上岡さんは、聞くたびに「『私たちは人間じゃなくなったんだ』と思った」という。自尊心を失い、保健所などに相談する勇気がわかず「ダイヤルを回しては切ってしまう状態がずっと続いた」と振り返る。

 マスコミ関係者の立場から参加した評論家の荻上チキさんは「多くの犯罪報道が、当事者を救い社会問題を解決するのではなく、ネタとして消費されていることを残念に思ってきた。当事者を追い込む代表的なものが行きすぎた薬物報道」と指摘した。

薬物報道ガイドライン案の一部 

 【望ましいこと】

 薬物依存症の当事者、治療中の患者、支援者、家族らが報道から強い影響を受けることを意識する▽逮捕される犯罪という印象だけでなく、回復可能な病気という事実を伝える▽相談窓口を紹介し、警察や病院以外の出口が複数あることを伝える▽依存症に詳しい専門家の意見を取り上げる▽回復した当事者の発言を紹介する▽背景に貧困、虐待などの問題が深く関わっていることを伝える。

 【避けるべきこと】

 白い粉、注射器といったイメージカットを用いない▽興味をあおるような報道をしない▽「人間やめますか」など人格を否定するような表現は用いない▽依存症者の雇用を奪うような行為をメディアが率先して行わない▽薬物依存に陥った理由を臆測し、転落・堕落の結果という取り上げ方をしない。

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