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中小企業 余裕なく がん治療と就労 両立支援

(2017年2月19日) 【中日新聞】【朝刊】【その他】 この記事を印刷する

 がん患者の就労支援が課題となる中、豊橋労働基準監督署(愛知県豊橋市)は昨年7月、管内の事業所に従業員のがんに関する実態調査をした。懸念される病気を理由にした退職は少なかったものの、中小企業では治療と就労の両立を支える職場環境づくりが難しい現状が浮かんだ。

 医学の進歩でがんの診断から5年後の生存率が6割を超える。治療と就労の両立は、子育てや介護との両立と並ぶ課題で、企業の支援が重要になっている。

 調査は、東三河8市町村の約1000事業所に実施し、266事業所から回答を得た。製造業が6割を占め、従業員数は10〜49人が46%で最多。1月に結果をまとめた。

 厚生労働省が両立支援のため昨年2月に作成したガイドラインを「見たことがある」と答えたのは19%にとどまった。ガイドラインが求める相談窓口を事業所に整備しているのは、大規模事業所(300人以上)では70%を超えたが、全体では38%。従業員に対する意識啓発の研修をしているのは7%だったが、ガイドラインの説明会への参加希望は46%に上った。

 過去3年間にがんになった従業員がいた事業所は29%。休職期間の多くは「3カ月以内」で、ほとんどが1年以内に復職し、大半が休職前と同じ職場と職種に戻っていた。一方、がんと診断されて退職した人は、がん患者がいた76事業所の132人のうち、10人にとどまった。

 豊橋労基署の担当者は「健康管理スタッフの人的資源のない中小の事業所は、外部からの援助も考える必要がある」と指摘する。

湖西の53歳男性、会社が配慮

画像直腸がんを克服し、手術前と同じ職場で働く井上光男さん=愛知県豊橋市で(一部画像処理)

 働き盛りの世代のがん患者が増えている。国内で年間85万人が新たにがんと診断され、うち3割が20〜64歳とされる時代。豊橋労基署の調査では、事業所の多くがこうした現状を「知らない」と答えたが、治療と就労の両立を支える会社も増えつつある。医療の進歩でがん患者の生存率が向上する中、仕事を生きがいにがんと共に生きる姿も目立ってきている。 (豊橋総局・相沢紀衣)

 豊橋市にある自動車部品工場に勤める井上光男さん(53)=湖西市=に直腸がんが発覚したのは2013年6月、49歳のときだった。仕事中、腹部に違和感を覚えてトイレに行くと、300ccほどの下血があった。早退して病院に向かった。

 翌日の内視鏡検査でがんが見つかり入院。「まさか自分が」と信じられない思いだった。

 7月末に腹腔(ふくくう)鏡手術を受け、医師から「ステージ3Bで、5年後の生存率は60%を切る」と進行度を伝えられた。幸い治療費は健康保険がある。有給休暇も最大で年間40日取得できる。

 ただ、やはり死が頭をよぎる。一番下の娘は大学4年で就職も決まっていたが、自宅のローンは2年分残っていた。家族の生活は生命保険で賄えるかとまで考えた。

 手術後に合併症を発症し一時危険な状態になったが、9月末には抗がん剤治療をしながら職場に復帰。金曜に注射を打ち、土日は休んで月曜に出社する生活を約半年間、続けた。

 井上さんの会社は規模が大きいこともあり、厚生労働省が昨年2月にガイドラインを作る前から、産業医が病院の紹介や従業員の主治医とのやりとりを担当。主治医が従業員の体調に適した仕事内容を書いた「就業意見書」を産業医に出し、それを基に所属長が仕事内容を考えている。

 井上さんも復帰後2カ月は座って作業できる仕事に変わり、出張も外してもらえた。転移もなく、3カ月に一度のコンピューター断層撮影(CT)検査や血液検査を受ける以外は、以前と同じ生活を送っている。

 「もし退社していたら、精神的につらかったと思う。会社には何も要望を出さなかったが、自然に配慮してくれた」

 同社は14年7月、短時間勤務を経てフルタイム復帰する「復職支援プログラム」を制定。両立支援に力を入れる。担当者は「復職と休職を繰り返すよりも、焦らず緩やかに戻ってきてほしい」と話す。

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