つなごう医療 中日メディカルサイト

断てなくても軽減、まず治療 「ハームリダクション」注目 

(2017年2月21日) 【中日新聞】【朝刊】 この記事を印刷する
画像資料を参考にしながら、語り合うスマープの参加者。通い続けることが何より大事とされている=愛知県内で

 アルコールや薬物、ギャンブルなどの依存症治療で、「ハームリダクション(有害事象の軽減)」という言葉が注目されるようになってきた。依存対象を完全に断つことが治療の土台で、その状態を長く続けることが大切だという考え方が主流だが、100パーセント断つことができなくても、問題を小さくする方法もあるのでは、という理念だ。

  (編集委員・安藤明夫)

 昨年10月に東京で開かれた依存症問題を考える日本アルコール・アディクション医学会総会では、ハームリダクションが初めてメインテーマになった。

 シンポジウムでは海外の取り組みの報告に続き、埼玉県立精神医療センターの成瀬暢也副院長が「やめさせることよりも、治療につながり続けることが大切」として、患者を否定しない医療の重要性を訴えた。

 酒や薬物を断つ治療プログラムに不熱心な人、何度も挫折してしまう人に対して、スタッフが「だめな患者」という態度で接すると、患者はますます追い込まれ、挫折しやすくなる。

 同センターでは、プログラムに出席するとシールを渡し、それがたまると仲間たちの前で表彰するといった「ごほうび療法」を取り入れ、患者のやる気を伸ばしている。失敗しても、また治療に取り組む意欲がわいてくる。スタッフが患者の良い点を見つけ、伝えていくことが、有効な治療につながるという。

 東日本大震災の被災地で、高齢者のアルコール問題に向き合ってきた東北会病院(仙台市青葉区)の奥平富貴子医師は「仮設住宅などを訪問しても、断酒を勧めると拒否される。その人の健康を守ることを基本に接していくことが大切」と話した。断酒を切り出さず、健康のアドバイスをする中で、節酒を勧めていくうちに、人間関係ができてくる。すると、被災者が「病院で治療を受けてみようか」と考えるようになることもあるという。

 一方、三重県四日市市のかすみがうらクリニック副院長、猪野亜朗さんは、節酒の効果が患者の健康を回復させるレベルになりにくいことを強調。「患者さん本人は、行動を修正しにくい状態になっており、曇りガラスを通して現実を見ている。その状態の患者さんが断酒より節酒を望んでも、安易に目標を下げてはいけない」と訴えた。

 そのためには、治療する側が「動機づける面接」の技術を磨き、家族、職場の上司、同僚などの協力も求めて、患者の客観的な判断能力を取り戻すことにより「やってみよう」という意欲を持てるようになるという。

ほめてやる気 治療継続へ

 各地の病院や精神保健福祉センターで取り入れられている薬物依存患者向けの認知行動療法のプログラム「SMARPP(スマープ)」も、ハームリダクションの理念に基づく。

 毎週の会合に集まる患者の尿検査の結果が陰性だと、スタッフが称賛の気持ちを込めてスタンプを押す。陽性であっても多くの場合、警察に自首を勧めることはせず、今後の治療について話し合う。患者は回復の途上であり、治療の場から離れないことが大事という考え方で「秘密が守られる」ことが、患者の安心につながるためだ。

 1週間を振り返って、薬物を使わなかった日にはシールを貼る。プログラムが1クール終了すると賞状を渡すなど、患者が「次も来たい」と思えるような雰囲気づくりをすることが主眼になっている。

 この手法は、治療継続の割合が高く、自助グループなどへの橋渡しもスムーズに進みやすいという。

 また、高齢者のアルコール依存症は、家族も「飲ませておけばおとなしいから」と治療への意欲が乏しい場合も多い。しかし、過度の飲酒は急激に体の衰えを進行させ、認知症のリスクも高める。

 東京都のクリニックには、送迎付きのデイケアなどで患者の日常生活を安定させ、仲間をつくることで、飲酒量を減らし、体力を回復させるという取り組みを進めているところもある。車いすだった人がつえ歩行に、つえの人が自力歩行になるなど目に見える効果が出ているという。

中日新聞広告局 病医院・薬局の求人