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〈いのちの響き〉18歳の門出を前に (下) 「親離れ」選択複雑な思い

(2017年2月24日) 【中日新聞】【朝刊】【その他】 この記事を印刷する
画像金属の輪の向きをそろえる作業をする太田励夢さん(右)と真美さん=津市の障害者施設「ぴーす」で

 津市の障害者施設ぴーす。2月のある日、特別支援学校高等部の卒業を翌月に控えた太田励夢(れん)さん(18)が、シャボン玉の容器を手に軽作業をする部屋に入ってきた。

 冬でもトレードマークのTシャツを身に着け、手にはお気に入りの赤い容器。「早く吹きたいよ」と言いたげな表情に、ぴーす代表で母親の真美さん(44)が笑いながら手話交じりに話し掛けた。「あれを先にやってからね」

 「あれ」とは、直径10センチの金属の輪の表裏をそろえる軽作業だ。市内の町工場からぴーすが請け負っている。

 生まれつき耳が聞こえず、重い知的障害を伴う自閉症の励夢さん。他の利用者と一緒に作業し始めたが、5分後には我慢しきれずシャボン玉を吹き始めた。ストローの先端にできたシャボン玉を大きくしたり小さくしたり。微妙な息の吹き具合による変化を楽しんでいる。

 卒業式は3月7日。その日を境に、中学部と高等部の計6年間通った学びやを離れる。学校では、担任や保護者、卒業後に通う施設職員らとの面談が始まるなど、旅立ちへ向けた準備がすでに本格化。励夢さんは、いつもと違う校内の雰囲気を察して、そわそわしだした。

 真美さんは、夫とともに式に臨席する予定。「つらかったことや、うれしかったことが思い出されて、涙をこらえられなくなるかも」。その週末には、家族4人で温泉旅行に出掛けて、励夢さんの門出を祝うつもりだ。

 高等部を卒業すると、障害が比較的軽い場合は一般就労への道が開けるが、励夢さんには難しいという。式の翌日から通うことを決めたのは田畑に囲まれた社会福祉法人の運営施設。周囲の交通量が少なくて危険性がなく散歩をよくすると聞いたから。

 「卒業すると体育の授業がなくなって、運動する機会が減る。励夢は食べるのが大好きで太りがちだから、合っていると思う」。太田さんが代表を務める「ぴーす」には通わない。

 ぴーす開設は、励夢さんの卒業後の居場所確保が、念頭にあった。ところが2015年7月に開設してみると、励夢さんは学校でできる作業が、ぴーすではできない。そのうち、「私や顔見知りの職員がいるから、甘えちゃうと分かった」。

 真美さんが想定しているのは、「自分たち夫婦が死んだ後のこと」だ。励夢さんは一人暮らしが難しいので、施設で暮らす必要が出てくるかもしれない。「その時に身の回りのことをできる限りやれるようになっているには、今は私が近くにいない方がいい」

 真美さんは、励夢さんや施設に通う子どもたちと接するなかで、障害のある人との関わり方を模索していった。「子どもに障害がなかったら、考えを巡らすことすらなかったと思う」

 昨年12月、真美さんが作詞し、ピアノを習っていた高校2年生の長女(17)が作曲と歌を担当して、「ヒーロー」と題した歌を作り、動画投稿サイト「ユーチューブ」に「Ry Ren」の名で投稿した。

 みんなのヒーローじゃなくてもあなたは私のヒーロー−。家族で訪れたファミリーレストランで冷たい視線を感じたことなど実際のエピソードを、歌詞に盛り込んだ。今月上旬には2曲目も投稿。「障害のある人に目を向けてもらうきっかけになれば」と願っている。 (諏訪慧)

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