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提供体制の充実図る コーディネーターに救急医参画

(2017年2月28日) 【中日新聞】【朝刊】 この記事を印刷する
画像心停止下の臓器提供の訓練で、想定を説明する黒木雄一医師(右)=名古屋市南区の中京病院で

 低迷する臓器提供の件数を増やすには、提供する側の病院の協力が欠かせない。名古屋市南区の中京病院救急科医長の黒木雄一医師(41)は、過去に脳死で臓器を提供した提供者(ドナー)の主治医を務めた経験から、自らコーディネーターを務め、いつ提供を希望する家族が現れても対応できる体制の整備に力を入れている。訓練の場を訪ねた。(稲田雅文)

 2月上旬の夕方、救命救急センターの病室に医師や看護師、他の病院からの見学者ら約60人が集まった。患者を模した人形が置かれたベッドの横で、黒木さんが「健康保険証で臓器提供の意思を確かめたものの、他のスタッフは知りません。まず、だれに伝えるべきですか」と質問すると、看護師は「院内コーディネーターです」と答えた。

 同病院では昨年、脳死での臓器提供の訓練を2回実施。今回は心停止後に腎臓を摘出する想定だ。法的脳死判定が終了すると手術にかかる脳死と違い、心停止後の摘出はいつ手術が始まるのか予測しにくい。さらに、心停止により血流が止まるため、より速やかな手術が求められる。参加者たちは、患者の家族や検視をする警察官らの役を演じながら手順を確認。ベッドを手術室まで運び、人形を使った模擬手術も実施した。

 黒木さんは、病院で提供希望者が現れたときに、手術の段取りや日本臓器移植ネットワークへの連絡調整などを担う院内コーディネーターの1人で、2年前に希望して就いた。救急医は運び込まれた患者を救うのが主な役割で、熱心に臓器提供の体制整備を進める人は少ない。同病院に院内コーディネーターは10人いるが、医師は黒木さんを含め2人だけ。月に一度、10人が集まるミーティングを開き、患者の臓器提供の意向を電子カルテに表示する仕組みなどを話し合う。

 黒木さんは東京医科大八王子医療センター(東京都八王子市)に勤務していた2007年8月、同病院で初めて、国内では58例目の脳死での臓器提供をした男性の主治医を務めた。

 臓器提供の手順や役割分担などの院内体制は未整備だった。ドナーの状態を良好に保つために細心の注意を払いながら、家族への説明や日本臓器移植ネットワークとの連絡、報道対応に追われ、数日間はゆっくり寝られなかった。「主治医としてのプレッシャーはものすごかった。臓器提供は、日常の業務とはなんら関係がないこと。かかわるのは二度と嫌だと思った」

 しかし、07年11月に中京病院に移り、11年5月に転機が訪れた。くも膜下出血で入院中の40代男性が脳死で臓器提供をした。主治医を務めた若い脳外科医は、患者の来院から提供までの4日間、着替えを取りに2時間ほど自宅に戻った以外は病院に泊まり込みに。若手医師は「昼夜構わずひっきりなしに院内外のたくさんの人が動きだしている状況で、とてもつらかった」と語ったという。

 以来、黒木さんは「ドナーの主治医を経験できる医師は限られている。特に救急医は、脳の病気や交通事故で回復が難しいと判断される患者の情報が最も入る立場。経験を今後に生かさないといけない」と思うようになった。

 厚生労働省によると、救命救急センターを備えるなど、国の示す条件を満たす医療機関は全国で862施設あり、うち臓器提供に必要な体制を「整えている」と回答したのは426施設にとどまる。実際に提供した施設はさらに少ない。熱傷の治療で皮膚移植を盛んに実施している同病院では、提供体制の整備にも積極的だ。

 院内コーディネーターとなり、過去に入院患者が亡くなった事例を調べていくと、主治医から家族に選択肢を示せば臓器提供に結び付いた可能性があるものがいくつもあることが分かった。「病院の負担が重いからといって、選択肢を提示せずに患者や家族の意思を無駄にするわけにはいかない」と考える。

 通常、看護師や臨床検査技師が務めることが多い院内コーディネーターを、医師が引き受けることにも意義があると考えている。「ドナーの主治医に対して同じ医師の立場で助言ができ、協力者がいるという安心感を与えられる。主治医の負担を最大限減らす体制づくりを進めたい」と力を込めた。

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